何事も「スピード解決」を図る会社に問題はないのか。400以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「部下との1on1で、悩みをすぐに上層部に報告する上司は、頼りがいがあるどころか、相談しづらいと思われているおそれがある」という――。

※本稿は、沢渡あまね『「すぐに」をやめる ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

椅子に座って背を向け合う二人のビジネスマン
写真=iStock.com/OJO Images
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1on1で上司から「何か気になることは?」と切り出され…

黒部みゆき。彼女は1カ月前に中堅スタートアップであるシューパロシステムズに中途採用で入社した。シューパロシステムズの文化は前職の大企業と異なり、黒部はお作法の違いに戸惑いながらも、なんとかまわりのメンバーとコミュニケーションをとり、良い関係も築いてきた。

今日はマネージャーである薗原との1on1ミーティング。シューパロシステムズでは、マネージャーと担当者との間で、週1回最低30分の1on1をおこなうことになっている。毎度、日々の業務の進捗確認がメインだが、今日はとりたてて話すこともない。たびたび流れる沈黙の時間に、黒部も薗原も明らかにぎこちなさを感じていた。

「ほかに、黒部さんが気になっていることとかありますか?」

残り5分で、薗原がこう切り出した。

とりたてて何も思いつかない黒部。そうはいっても、せっかくマネージャーが会話のボールを投げてくれたのだ。何も返さないのも無粋である。どうせなら、日々の業務進捗以外の気づきでも話をしてみよう。

そういえば黒部は、同じプロジェクトのメンバーの鶴田の行動や言動が気になり始めていた。鶴田は他部署に所属する新卒入社3年目の若手で、優秀ではあるものの自信家なところが鼻につく。ほかのメンバーに対する攻撃的な言動やふるまいが気がかりだった。とはいえ、尖った若手にありがちな行動だと思うし、騒ぐほどのことでもないとは思う。

「そうですね。あえて言うならば……」

そう前置きし、黒部は鶴田のことを話した。次の瞬間、薗原は表情をこわばらせた。

「なに、鶴田さんそんな態度なの? 優秀で爽やかな若手だと思っていたのだけれども。それは問題だな、すぐ解決しよう!」

そういうが早いか、薗原は出て行ってしまった。

これはまずい。いきなり大ごとになってしまった。焦る黒部。

雑談程度のつもりの相談が大ごとに

翌日、黒部はプロジェクトメンバーの数名から聞かれた。

「ねえ、いったい何があったの。薗原さんから、鶴田さんのことについてあれこれ聞かれたんだけれども……」

どうやら、薗原がプロジェクトメンバーに事情を聴きまわったようだ。鶴田の上のマネージャーにも話がいっているらしい。大ごとにするつもりはなかったのに、「何かありませんか」と聞かれたから、なおかつ黒部は入社が浅いこともあり社交辞令のコミュニケーションのつもりで、雑談程度に気になったことを話しただけなのに……。これでは、黒部はまるで「お騒がせさん」である。

聞けば、シューパロシステムズのマネージャーは、会議や1on1で知った内容は即上層部にあげ、かつ即解決するよう言われているらしい。

「この会社の1on1ミーティングでは、迂闊なことは言えないな……」

黒部は心にそっと蓋をした。