fv_8つの銘柄

投資の本質は「社会に必要とされる企業を、自分の価値観で選ぶこと」にある。前回は、身近な生活の不便から、私たちの暮らしを豊かにしてくれる可能性を秘めた企業を探す手法を紹介した。では実際にどのような企業が「未来を託すに足る存在」といえるのか。瀧澤氏が注目する具体的な銘柄を通して、表面上の数字だけでは測れない企業の真の実力に迫っていく。

投資家一人ひとりの問題意識がより良い未来をつくる

どの銘柄を選ぶかは、投資家にとって最大の関心事です。しかしその答えは一つではありません。私が注目している企業はいくつかありますが、それらは単に数字が割安だからとか、有望な事業を手掛けているからといった理由だけで選んだものではありません。

根底にあるのは「私がこうあってほしいと願う未来を実現してくれる企業かどうか」という視点です。ある人にとっては脱炭素が最重要課題かもしれません。別の人にとっては、森林破壊や生態系の喪失のほうが大きな問題かもしれません。女性の社会的不平等、子どもの貧困、高齢化と介護、あるいはペットの殺処分――それぞれの人生経験や日々の気づきによって、着眼点は大きく変わっていきます。そして、投資家一人ひとりが異なる価値観から銘柄を選ぶからこそ、多様な資金の流れが生まれ、社会の課題解決が進み、より良い未来が形づくられていくのだと思います。

私が「未来を託すに足る」と考える8つの企業

私は『会社四季報』が発売されると、数日かけて通読し、投資候補を絞り込みます。忙しい方は「会社四季報オンライン」のスクリーニング機能を活用するのもよいでしょう。

銘柄選定の大前提は、「その企業が社会に必要とされているか」「私が願う未来を実現してくれるか」です。そのうえで、直近の業績や営業利益率、配当、PEGレシオやPERの水準といった数字を確認し、最後にコメントを読んで定性的にふるいにかけます。こうして10~15銘柄に絞り込みますが、もちろんこの手順は私個人のものです。唯一の正解ではなく、それぞれの投資家が自分なりの視点で選び取ればよいのです。

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ここでは私が特に注目している8銘柄を取り上げたいと思います。それぞれに選んだ理由があり、未来を託すに足ると考える背景があります。

住友金属鉱山(5713)

日本で唯一の金鉱山である菱刈鉱山を持つ企業です。菱刈は品位が高く、少量でも採算が取れる優れた鉱脈として知られています。近年も新しい鉱脈が見つかり、埋蔵量の増加が期待されています。金は有事の資産とされますが、単なる投機対象ではなく、エネルギー転換や次世代技術にも欠かせない資源です。私はこの企業を、背後に確かな資産があることから「守りの駒」として見ていますが、攻めの要素も兼ね備えています。

NTT(9432)

日本の通信インフラを支える存在であり、その安定性は盤石です。しかし私が注目しているのは、安定に加えて次の時代を切り拓く技術力です。特に光半導体とIOWN構想は、膨大なデータ通信を可能にし、社会全体の効率化や省エネにつながるものです。つまりNTTは守りに強いだけでなく、新しい成長の起点を内包しています。

東京電力ホールディングス(9501)

福島第一原発の事故以来、社会から厳しい視線を向けられていますが、だからこそガバナンスは非常に強化されています。担当地域に電気を安定供給できるのは東京電力しかなく、社会に絶対不可欠な存在である事実は揺らぎません。AIの普及に伴い、データセンターの電力需要はますます高まる見通しです。さらに、世界最大級の火力発電会社JERAの株式50%を保有しており(残りの50%は中部電力)、その資産価値が現在の株価に十分反映されているとはいえません。将来的にはJERAの上場も視野に入ります。配当を重視するなら、同じ根拠で中部電力(9502)を選ぶのもよいでしょう。

王子ホールディングス(3861)

あまり知られていませんが、王子ホールディングスは国内最大規模の森林を所有している企業です。紙の需要が減少するなかでも、森そのものが資産であり、カーボンニュートラルや生態系保全の観点からも社会的に大きな意味を持ちます。森林を活かした事業展開や再生可能エネルギーの活用など、環境価値を直接的に担える強みがあるのです。私はこの企業を、社会インフラに近い守備的な位置づけとして考えています。

SBIホールディングス(8473)

CEO北尾吉孝氏の強力なリーダーシップの下で、日本の投資・金融業界を変革する決意が示されています。私が注目しているのは暗号資産「リップル」の保有残高で、動向によっては爆発的なリターンを生み出す可能性があります。金融という土俵で保守的に収まらず、果敢に成長を狙う姿勢は、他の大手金融には見られない特徴です。私はこの企業を「攻めの一枚」として位置づけています。

WOLVES HAND(194A)

動物病院を展開する数少ない上場企業です。高度医療の2次診療病院も手掛けています。動物病院は2025年11月現在で37施設、トリミングサロン21店舗。主力の動物病院は2016年当初の5施設から37施設へと7倍強に増加していますが、まだ展開エリアは東京・大阪が中心で、全国への展開余地は大きいものとみられます。日本のペット人口は約1600万頭で、今後も動物病院の社会的ニーズは高まるものと思われます。

kubell(4448)

ビジネスチャットツール『Chatwork』を展開しています。このチャットツール自体も好調を維持していますが、私が注目しているのはグループ子会社で展開する『タクシタ』です。いわゆる中小企業のバックオフィス業務を一括でアウトソースする、という新しい概念のBPOサービスです。ありとあらゆるビジネス系ソフトウェアに精通するチームを擁しており、従来の単純なアウトソーサーとはレベルの違いを感じます。日本の中小企業を救う一社になるかもしれません。

勤次郎(4013)

勤怠管理と健康管理を一元化したシステムを展開している会社です。DX化の流れに乗って、勤怠管理システムが好調なことに加え、従業員の身体的および精神的な健康管理を行うことで、クライアント企業の生産性と従業員幸福度を上げていくことに貢献しているという意味で、こちらも日本の中小企業を救う一社になる可能性があると感じています。

ポートフォリオはバランスと入れ替えで強さを保つ

いくら良い企業を見つけたからといっても、一括投資をすればいいというわけではありません。銘柄を組み合わせるとき、私はよくサッカーチームを思い浮かべます。どんな強豪チームでも、攻撃陣だけでは勝てません。まずは守備が安定していることが不可欠です。投資も同じで、安定性のある銘柄をしっかり土台に据えることが、長期的に成果を出すための前提になります。

そのうえで、攻守のバランスを取りながら次の成長につなげる中盤の役割があり、さらに試合を決める一撃を狙う攻撃陣が必要です。投資におけるフォワードは、リスクを承知でリターンを狙う成長銘柄にあたります。

大切なのは、チーム(ポートフォリオ)全体で利益を出すことであって、すべての銘柄が含み益になっていなくてもいいということです。新人が伸び悩んでいるときはベテランが活躍して安定させ、ベテランが息切れしたときは若手が底力を発揮する。そうやって全体のバランスを取りながら、勝ち点を積み重ねていくマネジメントを目指してください。

監督にとってもう一つ重要なのは、選手の入れ替えです。ポテンシャルはあってもなかなか結果が出せない選手や、直近の運動量(値動き)が大きすぎて息切れしそうな選手は、思い切ってフレッシュな選手と交代させます。そうすることでチーム全体の調子を維持し、シーズンを戦い抜く力を保てるのです。投資家もまた、監督として布陣のバランスを見極め、必要に応じて采配を振るうことが求められます。

繰り返しになりますが、投資は単なる資産運用ではなく、未来を選び取る行為です。どの銘柄に資金を託すかという選択を通じて、自分が望む社会を形づくっていくことができます。大切なのは、短期の株価の上げ下げに振り回されることではなく、社会の変化を見据えながら、自分なりの価値観で判断を積み重ねていくことです。あなた自身の投資が、必ずや次の時代を支える力になるはずです。自らの問題意識を出発点に、未来を託すに足る企業を選び取っていただきたいと思います。

(取材協力=瀧澤信 執筆=渡辺一朗 撮影=片桐圭)