良い考えを無にする「せっかちな企業風土」

会議から3日経った朝、黒部は須田貝から声をかけられた。

「あの……黒部さん、僕、自分のやりたいこと、そして会社の新規事業につなげたいこと、自分なりに考えてみたのですが、話を聞いてもらってもイイですか?」

黒部は笑顔でふたつ返事でOKし、会議室に移動した。

須田貝は、じっくり考えて答えを出すタイプなのだ。会議のその場では発言しないけれども、問いやテーマに丁寧に向き合い、そして自分なりのすごく良い答えを出す。決して、何も考えていないわけでも、よもや思考能力が劣っているわけでもないのだ。黒部はそれをよく知っている。

「で、あなたはどうしたいの?」

相手が言葉に詰まったとき、当社の役職者は口癖のように繰り返す。どこぞのコンサルティングファームの口上を真に受けたのか、せっかちな気質なのか、その両方なのか、黒部にはわからない。しかし、それはせっかくの良い意見や考えを無にしていないか。

その場で声を挙げた人だけが評価される、その風潮もどうかと思った。

須田貝のアイデアはとてもいいものに思えた。しかし、時すでに遅し。なんでも、新規事業のアイデア募集はあの会議の直後に締め切ってしまったらしいからだ。

「なんだかもったいない……」

黒部は、つくづくそう思った。

時間をかけてアイデアを熟成させる会議があってもいい

△ポジティブ・ケイパビリティ優位な組織あるある 「で、あなたはどうしたいの?」症候群

ポジティブ・ケイパビリティ優位な組織に見られがちな、「で、あなたはどうしたいの?」。その組織風土の特徴は次のとおりです。

・その場で良い答えを言う人が評価および重用されやすい
・意見を言わない人を無価値とみなす
・その結果、その場の声の大きい人の意見だけが通る

もちろん、「意見を言わない人は会議に出席するべきではない。全員が意見をもって場に臨むべきである」という考えには、私も基本的には賛成です。「お地蔵さん」だらけの会議は生産性の観点でも問題ですし、場の雰囲気もよろしくない。