必要な実力とコミュニケーション力
2人が、学生時代に力を入れたのが、「たき火」だった。音楽サークルの部屋の外に、たき火をする場所があった。そこで火をたき、みんなで酒を飲んでは話し合っていた。坂本さんは、「ゴミのような生活だった」と笑いながら思い起こす。
「いざ、大学に入ると、ガツガツとは勉強をしなくなりました(苦笑)。授業では先生から作品について講評を受けますが、あれは楽しみでした。あけっぴろげに意見を闘わせ、ぶつかり合うことに慣れましたね。社会人になってもそのコミュニケーションの仕方を引きずってしまい、少々、まずくなることがありましたが」
今、専門学校や大学で教えるときも、学生たちの作品について、意見を踏み込んで言うようにしている。武笠さんが話す。
「反発するような学生もいますが、私たちとしては、彼らに何かを感じ取ってほしいと思っているのです」
坂本さんが、間髪いれず、「露骨にふてくさる学生は少ない」と語り始める。
「ふてくされる、というあけっぴろげなコミュニケーションは、今の学生はあまりしないかもしれませんね。黙って、心の壁をつくる学生もいます。それでも作品については気にせずぶつかっていっちゃいますけどね」
学生時代を終え、就職をするとき、武笠さんは「学歴の恩恵を受けることができた」と振り返る。
「企業の求人票を見ると、“都内の5美大学に限る”と書かれてありました。就職のときにはじめて、自分が恵まれているんだな、と思いました」
都内の5美大学とは、多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部、武蔵野美術大学を指す。2人の周りの学生は、メーカーや広告代理店の宣伝部、広報部、デザイン室、建築事務所、放送局や映像制作会社などに進んだ。
武笠さんが、玩具メーカーに企画・デザイン職として就職し、配属された部署では、この5つの美大出身の社員が多かった。武笠さんは、「大学受験の前が、デカイ」と力を入れて説明する。
「先輩方は、デッサンのレベルが高かったです。美大や芸大に入る前に、猛烈に描いて大学に入り、自由な環境の中で、独自のやり方でさらに描いてきたのだと思います。学閥や学歴について感じることは、1度もありませんでした」
坂本さんも社会人になってから、学閥や学歴について感じることがないという。
「この世界は、実力とコミュニケーション力だけ。学歴は、まったく関係なし」