今後、マイナンバーに紐づくサービスが拡大されれば、扱われる個人情報も当然増えていく。国民にとっては、利便性の向上にともなって、不安感も増していくことになるだろう。しかし、制度の仕組みをよく知らないまま、付け焼き刃の「自己流対策」をするとロクなことがない。ある税務署職員が、警鐘を鳴らす。

「来年は多くの無申告者が慌てて確定申告をするでしょう。でも、副業の水商売で年間800万円稼いでいる女性が確定申告をすれば、税務署は『去年も同じくらいの副収入があったのでは』と疑います。そして、5年間さかのぼって調査をする。結果的に(住民税や健康保険料を含め)過去数年分の追徴課税が発生し、莫大な出費に焦ることになるかもしれません」

マイナンバーのマスコット「マイナちゃん」と甘利明経済再生相。(時事通信フォト=写真)

確定申告が「やぶ蛇」になることもあるというのだ。いっぽうで、個人番号を勤め先に届け出れば、無申告が発覚しやすくなるのもたしか。「これまで大丈夫だったから」と高をくくるのも得策とは思えない。しかし、税理士の井出進一氏は、「理由なく闇雲に勤め先への個人番号の届け出を拒否するのは、効果的な自衛策ではない」と助言する。

「副業かどうかに関係なく、届け出は個人の義務ではありません。また、不都合な事情がなくても『他人に自分のことを知られたくない』と感じるのもわかる。ですが、勤め先に個人番号を知らせても、パスワードさえ知られなければ、勤め先は何ひとつ情報を引き出すことができません。それなのに頑なに届け出を拒めば、『何か後ろめたいことがあるのだな』と思われますし、税務書類などへの従業員の個人番号の記載は勤め先にとっては義務。職場での関係悪化は免れないでしょう」

ちなみに、理由もなく他人の個人番号を取得したり、それを使って個人情報にアクセスしたりするのはマイナンバー法違反となり、個人情報保護法よりも重い罰則が科せられる。悪用の意図があれば別だが、勤め先が個人番号から個人情報にアクセスすることはまずないだろう。そんなことを心配するよりは、「不要な場面で個人番号を知られないよう個人番号カードにカバーをかける、推測しやすいパスワードにしない、パスワードをマメに更新する、などの対策を講じたほうがよほど効果的」(井出氏)というわけだ。