障がい者スポーツでチケット有料化
【窪田】少し話は変わりますけど、去年の世界選手権でチケットを有料化に踏み切ったと聞きました。サステイナビリティを担保するためとはいえ、葛藤もあったかと思います。
【松崎】信念と覚悟で踏み切りました。この業界で僕たちの立ち位置はフロントランナーなんです。もちろん、われわれの中にも保守的な人はいましたけど、この大会を区切りにがらりと見方がかわったと感じています。ブラインドサッカーがいろんな取り組みをしているとか、新しいことに挑戦しているという印象を持ってもらえるようになりました。
僕らが世界選手権をやるのに有料にしなかったら、これから2020年に向けていろいろな競技が大会を招致していく中で、有料化に二の足を踏むだろうと思いましたし、僕らとしても興行したいというよりも、お金を払って見る価値のあるものだということを社会に浸透させたかったんです。そういう意味で有料化へのシフトは必然的ではありました。
もちろん、いくらにするかは葛藤の連続でした。結局500円から2500円の価格帯になったんですけど、2500円を高いと言う人もいました。ふらりと来て当日券が2500円だと聞いたとたんに帰ってしまう人もいました。
【窪田】ちょうど入り口付近にいたときに、たしかにそういって帰られる方がいました。見ているほうが息をのむほど迫力ある試合だということを、ご存知なかったんでしょうね。
【松崎】「ふらっと来てもいつでも観られるものなんでしょう」「ガラガラなんでしょう」っていう印象があるのが障がい者スポーツなんですよ。
世界選手権が開催される1週間前まで、現実になってほしくないことを夢に見ることがありました。観客が3人しかいないとか、僕と大坪というスタッフが会話をしていて、大坪はチケット販売の責任者でもないのに、僕はその大坪に怒っているんです。
幸いにして開幕戦の3日前にチケットが完売したので少し安心できました。当日は満席で立ち見する観客も出るくらいだったんです。有料化の道を実現できたところは、障がい者スポーツの歴史に残るべき大会になったなと思っています。
【窪田】世界的に見ても有料の大会は少ないんですか。
【松崎】4年前にあった全国大会では500円だったんです。満席になるほど来場者があったのは今回が初めてです。どの参加国もこんな雰囲気のブラインドサッカーの大会は初めてだったとおっしゃっていました。
【窪田】来場者数をはじめから予測することはできませんからね。
【松崎】そうなんです。実はスタンドは特設でつくりました。お金もかかりましたけど、その規模をどこまでにするかが非常に悩ましかったです。
【窪田】横断幕もそうそうたる企業がスポンサーについていましたよね。法人営業のスタッフもいらっしゃるんですか。
【松崎】はい。法人営業は相当がんばっています。
【窪田】2020年に東京パラリンピックが開かれますけど、それに向けた具体的な事業計画や、チームの目標は立てていらっしゃるんですか。
【松崎】組織としては日本代表がメダルを取ることです。興味を持ってくださった方たちのために、成し遂げなければならないミッションです。そして、未来を担う子供たちのために、それができる環境をつくっていくための何かを示していきたい。
2012年パラリンピックが開かれたロンドンでは、「ひとつになろう」が成功したと言われています。個人的にはそのロンドンを超えなければいけないと思っています。そういう点では多様性に意義を持たせなければいけないと感じています。ですので、ブラインドサッカーという立場にこだわって活動をしてきたんですけど、そこから少し目線をあげて活動をしていく必要がある。そこにはもちろんチャレンジもあります。