「ここまでやったんや。つぶれても本望や」

まず、整理を始め、死品を洗い出し、不要な材料を処分した。父は「もったいないことすな!」と怒り、口論を繰り返した。あるとき、古いプレス機を廃棄しようとすると、父が激怒して、「目の前から消え失せろ!」と山田を怒鳴りつけた。

だが、山田はめげない。次に整頓に着手、「床に工具を置かず、箱に入れてくれ」と社員にお願いしたが、何度言っても直らない。あるベテラン職人がキレて、山田に文句を言った。小さい頃から知っている親戚のような社員にもわかってもらえず、情けなかった。

そして、いよいよ床の清掃だ。デッキブラシで油と鉄くずを取り除き、一面に緑のペンキを塗った。汚れた機械も洗剤とたわしで磨き、ペンキを塗った。壁や柱もきれいにした。

山田はうれしくて、手伝ってくれたみんなと床に寝っ転がった。すると、いやでも天井が目に飛び込む。錆びて真っ赤になっていた。天井も何とかしたいが、仕事を止めなければできないと山田が悩む中、父が「仕事を2週間止めよう。いまの仕事をがんばってこなして、次の仕事を待ってもらえばいい」と言った。

山田は驚いた。父が2人の思いを受け入れたのだ。こうして天井にもペンキを塗り、「工場の丸洗い」が完了した。そのとき、あるベテランの社員が「ここまでやって会社がつぶれたら、世間の笑いもんやな~」と言うと、父が「いや、ここまでやったんや。つぶれても本望や」と応えた。山田はあふれる涙を止められなかった。

こうして、社員の意識は変わり始めた。新人も増え、職場は活性化した。その過程で、業務の効率化を図る工程管理ボードが生まれた。進捗状況や納期などを記入するホワイトボードだ。他にも3Sの過程でいろいろな工夫が行われた。

こうしたノウハウを新事業に活かそうと、「ワイデクル」というプロジェクトが立ち上がり、デザイン会社と提携して管理ボードや整頓グッズ、管理ノートなどを開発、販売も始まった。

3Sという誰もが取り組める活動から、山田兄弟は大きな変化を生み出したのである。

(文中敬称略)

株式会社山田製作所
●代表者:山田 茂
●創業:1959年
●業種:板金、製缶、機械加工
●従業員:16名
●年商:1億9000万円(2014年度)
●本社:大阪府大東市
●ホームページ:
http://www.yamada-ss.co.jp/
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