日本でも、早くから欧米に倣ってコーポレートガバナンスを取り入れ、社外取締役を積極的に活用しようとしてきた企業は数多くある。

例えば、2013年に3人の社外取締役を採用したトヨタ自動車は「グローバルな視点を持つ経営者らの声を反映し、柔軟な経営ができている」と胸を張る。このように今回の指針を優等生のように歓迎する声もあるのは事実だ。

不祥事を防止できない社外取締役制度 大塚家具が社外取締役を導入したのは2008年で、取り組みは先進的だった。しかし、大塚勝久氏、久美子氏の親子騒動は泥沼化、その間も3人の社外取締役は何もできなかった。(写真=時事通信フォト)

その一方で、父娘の骨肉の争いで話題になった大塚家具も早くから社外取締役制度を導入した会社だ。13年度の有価証券報告書によれば、取締役8人のうち3人が社外取締役だったが、創業者の会長のワンマン経営になすすべがなく、経営権をめぐる争いは激化し、マスコミに広く報じられ、結果として企業価値を大きく下げてしまったのはご存じのとおりだ。

約36億円の不適切会計が最近発覚した東芝も、かつて巨額損失隠し事件を起こしたオリンパスも社外取締役を置いていた。社外取締役が不祥事を防止することに、何の役にも立たないお飾りであるという事実だ。透明性が高まるなどと信じる経営者はいないし、投資家もいない。

今回の指針により、幅広い人材が社外取締役に登用されれば変化はあるという見方もあるだろう。大半が弁護士、キャリア官僚OB、大学教授になることが予想されている。

私は、こんな話を耳にした。

ある有名企業の社外取締役に就任した大物官僚OBのA氏は、どこかで読んできた経営本の内容のような経営をしなくてはダメだと言い放ち、企業側は大迷惑しているという。

A氏は政治家に仕える官僚として、田中真紀子氏や菅直人氏など、無知なのに自分が正しいと信じ込んでいる大臣たちの大暴走を知っているはずなのに、自分が同じことをしているとは気づかない。

結局その会社は、取締役会の開催回数をできるだけ減らし、問題のA氏が経営に極力関与できない方向を模索することになってしまった。

経営について詳しい人物を招いて会社の細かい数字を盗まれても困るし、無知のくせに声が大きい人物も迷惑だとして、社外取締役の人選は難航することだろう。ある意味、宇宙飛行士を起用した企業は正しい。ただ、年間で約1000万円といわれる報酬が目当てで、社外取締役をやりたがる官僚OBは多いだろう。もしも、官僚OBを企業に入れるのであれば、求められるのは官僚時代に築いた人脈を生かした霞が関との折衝などの役割だろう。それは経営への関与では決してない。弁護士ならトラブルの処理、大学教授なら権威づけといったところだろうか。しかし、その程度なら取締役ではなく、企業顧問やコンサルタントで十分ではないか。