錦織は「下あごのズレあり」「歯並びが内向きで窮屈」

確かに、運動量からいえばサッカーよりテニスのほうが多く、過酷だといわれる。だが、テニスに接触プレーはない。少なくとも、相手選手が足首にタックルをかけて削りに来る場面は絶対にない。そう考えると、クリスティアーノ・ロナウドがいかにケガが少なく、錦織のケガが多いかが浮き彫りになる。

なお、クリスティアーノ・ロナウドも元々歯並びが良かったわけではないが、マンチェスター時代から歯科矯正に取り組んできた。彼の治療経過については、ポルトガルの歯科学会で詳しく発表されている。治療の結果、彼のパフォーマンスとCM契約本数はどうなったか。世界中の誰もが知っている通りである。

アスリートとは、自らの肉体が資本でありながら、この肉体を傷つけなければ生きていけないというある種の矛盾を抱えた存在である。全てのプロアスリートが大なり小なり故障を抱えて生きている。それを踏まえた上でも、錦織圭の負傷頻度は高すぎる。今までの幾多のアスリートたちの実例や取材から考えて、これは歯が一因と思わざるをえないのだ。

▼歯科医「歯がケガ多発の一要因」

「私も一ファンとして錦織選手を見ていて、歯が気になっていたのですよ」

今回、錦織の歯を分析いただいたのは、ナグモ歯科赤坂クリニックの佐藤孝院長である。

「最終的には本人と面会して、口の中を見せてもらわないとわかりませんが……」

そう言いつつ、『頂点への道』の巻頭に収録されている幼少期から現在にいたるまでのプレー中のカラー写真をもとに分析していただいた。

錦織の自著『頂点への道』(文藝春秋)の表紙から判断すると、あごがやや右にズレているように見える。

「人間にとって、下あごは動物にとっての尻尾と同じバランサーの役割を果たします。下あごが鼻と首を結ぶ体の中心線上にあれば問題ないのですが、写真を見る限り錦織選手は下あごがズレているように見えますね」

佐藤はそう切り出した。写真を確認すると、確かに錦織のあごはほんの少しだが、体の中心線からずれているように見える。

「歯並びを描く曲線のことを歯列弓と言いますが、錦織選手は子供時代からもともと上の歯列弓が狭く、成人してからはさらに狭くなっていますね。そのため、上下とも全体的に歯が内向きに生えていて、歯並びが窮屈になり、余分な力を入れて噛みしめているように見えます。そこであなたが指摘する通り、ケガの遠因となっている可能性は否定できません」

余分な力による疲労や体への負担が蓄積し、ケガを誘発するのか。断定はできないが、専門の医師も錦織の負傷体質を危惧していたのだ。佐藤は錦織タイプの場合、どんな弊害がありうるか解説してくれた。

「特にプレー中に身体の重心がどちらかに大きく傾いた時、体幹が不安定になりバランスを崩しやすくなります。錦織選手はほとんどの場合、上下の歯を噛みしめてボールを打っているようです。瞬間的に歯を強く噛みしめるときに、筋肉でサポートはしますが、今の錦織選手の歯の噛み合わせ状態ですと、安定しないために故障しやすくなってしまうのではないでしょうか」