妖怪は子供たちを守るものだった
なぜ土地と密接に結びついているかといえば、もともと妖怪が現象だったからです。たとえば「ぬりかべ」は、水木漫画では大きな壁に目鼻がついたような姿ですが、もともとは「夜道を歩いていると、突然何か見えないものにぶつかって先へ進めなくなる」という奇怪な現象のことでした。
1回だけならただの怪談ですが、そこを通るたびに同じことが起これば、「あそこには“かべ”の化け物が出る、ぬりかべだ」ということになります。妖怪がいることにすれば、恐怖感は薄れる。「ぬりかべが出る」と思っていれば、少しは心の準備ができるからです。
柳田國男が『遠野物語』で描いた「河童」も、沼や川の淵に住むとされています。これはもともと子供たちが川で遊ぶとき、危険な淵に行かないよう戒めるための言い伝えだったのでしょう。妖怪は、空想を刺激する娯楽でもあり、子供たちを守ってくれるものでもあったのです。
老人問題や子殺しなど、いまの日本の社会問題は、土地と人間が切り離されたせいで起こっているともいえます。やはり人間は、自分が生まれ育った固有の場所とつながっていないと落ち着かないものです。そう考えると『妖怪ウォッチ』の主人公・景太が「さくらニュータウン」という新興住宅地に住んでいるのも偶然とは思えない。土地との結びつきを求める子供たちの無意識が、妖怪への畏怖と憧れを生み出しているのかもしれません。