医師は「呪いの言葉」を口にしていないか
実際のところ私たち医師は、毎日のように患者さんやご家族に厳しい言葉を伝えざるを得ません。病名の告知、短い予後、予想される治療の副作用、だんだんと体力が落ちていく経過の予告など、数え上げればきりがありません。
ある医師はそれらの言葉をもって「呪い」と表現していました。確かに、むきだしの言葉を患者さんに突き付けることは、患者さんの気持ちを下げこそすれ、前向きにする要素は一つとしてないでしょう。
患者さんが「代替療法を受けたい」という希望を口にしたとき、それを頭ごなしに否定してはいないか。それもある意味「呪い」で、患者さんがその治療法と前向きに生きていこうという気持ちまで萎えさせてはいないか。
医師は本来、もっとその部分に敏感になるべきなのです。
「もう先は長くないので、あとは自分の時間を大切に過ごして下さい」という類の言葉をかけられて、いったいどれほどの人が「自分の時間を大切に」過ごせるでしょうか。
「死に向かって、前向きに生きる」というのは並大抵のことではないはずです。私たち医師は、患者さんとの「無配慮」な向き合い方について、反省が必要ではないでしょうか。
もちろん、私自身が理想的なコミュニケーションを完全に実践しているというわけでも、明確な答えが見えているというわけでもありません。ですが本書は、科学者として、同時に心を持った一人の人間として「こういった患者さんたちと向き合う覚悟がまずは大切である」と反面的に教えてくれている面もあります。
がんサロンなどで出会う患者さんは、前向きな方も本当に多いのですが、「死に向かって前向き」というよりも、あくまでも生に向かって前向きであり、「自分の人生を生き抜く」という決意を感じることが多いものです。
このような患者さんたちに接していると、緩和ケアで教えられる「死を見つめ、受け入れることが大切」といった表現が、いささか綺麗事のようにも見えてきます。
ただ、そのような方々も何もせずに突然そういった心境になるわけではありません。皆さん、多くの葛藤や苦しみを乗り越えた上で、そういった生き方を選んだことでしょう。誰しもが簡単に乗り越えられるような道程ではないはずです。
特に本書で繰り返し目にする「治療法は自分で決める」「より前向きに生きる」「『どうしても生きたい理由』を持つ」といったメッセージには、私も同意できますし、多くの方の共感を呼ぶはずです。