辞めることを認める、労基法と民法
労働基準法には、あらかじめ明示された労働条件実際の労働条件が違う場合はいつでも退職できる(15条2項)。ましてや残業代を支払わない、最低賃金を下回るなどの違法行為があれば即刻辞めることができる。また、1年以上の労働契約を結び、実際の労働期間が1年を超えていればいつでも退職できる(労基法137条)。しかも、契約期間の途中であっても「やむをえない事由」がある場合は辞めることができる(民法628条)。やむをえない事由とは、本人の意思では避けることができない事情であり「病気で働けなくなった」「夫の転勤で転居しなくてはいけない」といった事例があるが「学業に支障を来し卒業できない」という理由も当然該当するだろう。
大学生の中にはこうした法律知識を知らない人も多い。
最大の問題は、高校や大学で労働法に関する講義がないことだ。法学部の学生なら多少教わるかもしれないが、1~2年生でどこまで知っているか疑わしい。たとえばキャバクラに勤務する女子学生は、
「3カ月間勤め、辞めたいと申し入れたが『1カ月前に届けるのが社会の常識だ』と認めてくれない」
という相談を寄せている。
こうした学生の無知につけこんで強圧的な態度に出る雇用主もいる。
法律知識はネットで調べればわかるかもしれないが、雇用主が怖くて言い出せない状況に追い込まれている人もいる。カラオケ店でバイトしている男子大学生は、
「学校が忙しくなり、辞めたいと店長に申し入れたら『代わりの人間を2人連れてきたら辞めてもよい』と言って辞めさせてくれない」
と訴えている。
▼素直で従順すぎる学生たち
明らかなウソをついたり、強圧的態度で学生を辞めさせようとしない雇用主は言語同断だが、学生の側にも問題点がないわけではない。
労働組合の労働相談センターの担当者はこう指摘する。
「法的知識を知らなすぎるという面もあるが、素直で従順な人が多いように思う。辞めるにあたって会社の同意を得てから辞めたい、いいですよと言ってもらわないと申し訳ないという気持ちがある。それを逆手に取られていつまでも辞めさせてもらえない学生も多い」
退職届を一方的に出すだけで辞められるのに、同意がないと辞められない、あるいは今辞めるとバイト先に迷惑をかけるからタイミングを見はからって辞めようとするうちにずるずると働かされてしまう。人手不足の会社ほどそういう学生は一生懸命に働く良い人材であり、手放そうとはしないだろう。なだめすかしたり、時には強い態度に出て引き留めようとする。
雇用主の本音は、学生が卒業できようができまいが、関係ないというもの。学業もへったくれもない。単に仕事をこなすための1つのコマとしか考えていないのだ。