成熟社会にふさわしい政策への転換

リーマン・ショック後にとられた金融緩和政策によって、欧米株式市場は2012年前半にリーマン・ショック以前の水準を回復した。その一方で、低迷し続けていたのが日本の株式市場だった。国際分散投資を基本スタンスとする海外の投資ファンドは、出遅れ感の著しい日本市場への投資に乗り出すことになる。こうして、日本の株式市場は海外投資家主導で、政権交代前の12年11月13日の8661円をボトムに上昇トレンドに転じていった。同様に、円相場についても政権交代前から、大規模な為替介入の効果で円安に流れが変わっていたと結論づける。

著者はこうして第1の矢を折り、第2、第3の矢を否定していく。さらに、安倍政権が弓につがえようとしている第4の矢、すなわち現政権の極右路線の危うさを指摘する。

現象面を見る限り、株価は上昇し、為替円安に伴い大手輸出企業の業績が改善している。しかし、その先がトリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者に富が滴り落ちるとする理論)頼みとなれば、単に富の偏在化が促進されたに過ぎない。

非正規労働者の増加、生産年齢人口の減少等を背景に、消費社会を支えてきた中間層が確実に厚みを失いつつある。こうした状況を踏まえ、著者は成長願望型ではなく、成熟社会に見合った政策への転換の必要性を訴える。

昨年7月の発行で、すでに第7刷。この種の書籍としては異例とも言うべき版を重ねているが、今日までに本書が指摘する課題の数々に何ら変わりはない。今年米寿を迎える著者は、リハビリを行いながら一部口述速記で本書を完成させた。硬骨の経済学者による文字通りの労作である。

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