LFP経営に大きな影響与えたGembaの概念

BR組織がプリウスのスピーディな開発を可能にした。(写真=時事通信フォト)

BR組織によって達成されたミッションの代表例が、ハイブリッド自動車「プリウス」の開発である。

90年代初め、トヨタではハイブリッドシステムの研究を部門横断型のプロジェクトとして進めていた。しかし十分な進捗が見られなかったため、当時、副社長として環境対応車開発の旗振り役であった奥田碩氏が、ハイブリッドシステム開発のミッションを帯びたBR組織の編成を決断。94年12月、専任メンバー3名、兼任メンバー4名からなるBR-VF室が誕生した。

メンバーに最初に与えられたミッションは、トヨタが採用すべきハイブリッドシステムの選定であった。現在でこそハイブリッドシステムはトヨタ方式が主流となっているが、プリウス発表以前には、約80種類ものハイブリッドシステムが世に知られていたのである。チームはそれらを検討し、採用すべき候補を絞り込んでいった。

7カ月後の95年6月、このチームの検討結果をもとに、社内会議においてハイブリッド車の開発が正式決定された。そのわずか2年半後の97年12月には、初代プリウスの発売が開始されたのである。

トヨタでは大小合わせて数十ものBR組織が機動的に編成され、縦横無尽に動いている。“表”の組織が今日、明日に専念する一方、“裏”の組織であるBRは未来を創造するための具体的なテーマを担い、期間限定で集中的に活動する。大組織であるトヨタが硬直化せず、ハイブリッド車や燃料電池車(FCV)で世界をリードする秘密はBRという“裏”の組織にある。

同様のタスクフォースに、東レの「GO(グローバルオペレーション)推進室」がある。合成繊維を祖業とする東レが、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングとの協業のために設置した特命チームだ。繊維が自ら発熱することで保温性を確保する「ヒートテック」やコンパクトに畳んで持ち運べる「ウルトラライトダウン」という大ヒット商品を生み出したことで知られる。初期のメンバーは10名ほど。それで年間1000億円もの新たな売り上げを創出している。

実はLFP経営のコンセプトには、日本企業の「現場」という概念が大きな影響を与えている。LFP経営を提唱しているローランド・ベルガーのグローバルCEO、シャレドア・ブエは現場や現場力という概念に関心が深く、私も何度となく質問攻めにされた。彼の著書『ライト・フットプリント経営(Light Footprint Management : Leadership in Times of Change)』には、「Gemba」という言葉が20回、「Gemba Power」という言葉が10回近く登場する。

LFP経営では、日本企業がこれまで大事にしてきた「現場を重視し、現場に裁量を委ねること」に力点が置かれているのだ。