イヤイヤ期の育児=ブラック企業勤務

容疑者の子供は、6歳と3歳だった。筆者の子供は5歳と2歳。このくらいの年の子を育てる大変さは、同じ母親としてよくわかる。

子供は2歳を過ぎた頃から自我が芽生えて、親の言う事を聞いてくれなくなる。この時期は「イヤイヤ期」と呼ばれ、母親たちは“魔の2歳児”と恐れている。子供の成長の一過程にすぎないイヤイヤ期だが、この時期の子供の振る舞いは母親をひどく消耗させる。

たとえば、買い物に行かなくてはいけない時、その準備をするにも、食事、着替え、オムツ替え……と、すべてにイヤイヤと抵抗するので、何もかも思い通りには進まない。なんとか外に出ても、目的地と違う方向に歩きたがる、何かに気を取られて車道に飛び出す、思い通りにならないと癇癪を起す、などなど。

子供といると、いつ何が起こるかわからないから、常に神経を張りつめていないといけない。子どもの巻き起こす嵐のなかで、自分自身も頭がおかしくなりそうになる瞬間を何度も経験した。下の子が風邪を引いた時、不安から一晩中おっぱいを欲しがり、疲労困憊してクタクタなのに一睡もさせてもらえなかった時には、軽く殺意を覚えたこともある。

▼私も何度も子どもに殺意を覚えた

だが、私の育児負担は、世の母親たちに比べて軽い方だ。

夫が単身赴任で平日は母子家庭状態だが、昼間は子供を保育園に預かってもらえる。取材などで帰りが遅くなることがあるので、週に2回は母がお迎えや夕食の世話をしてくれる。週末は夫も一緒に子育てをしてくれる。

恵まれていると思う。けれども、私はたびたびキレてしまう。こんな私がもし、頼る人もなく自分1人で子育てしていたら……と考えると恐ろしくなる。この大変さから逃れるには、子どもを殺すしかないと衝動的に手をかけてしまうことだって、容易に想像できてしまう。

容疑者は、上の子は幼稚園に通っていたが、下の子は自宅で見ていた。このように自分で世話をしている人にとって、育児は年中無休で24時間勤務の重労働となる(当たり前だが無報酬)。とくに子供が小さいうちは、前述したように気が休まる瞬間がない。好むと好まざるとにかかわらず、長時間の緊張と重い責任を課せられる。残業時間月80時間が労災認定基準の過労死ラインと言われ、それを超えると「ブラック企業」と名指しされることがあるが、「育児勤務」はそれと肩を並べる苛酷さだと思うことさえある。