相手の肩書の軽重で頭の下げ方を変えてはならぬが、「仕事の場面」別の謝罪効果を最大化するコツは知るべし。

“がん首”をたくさん並べて申し訳ありませんの大合唱を!

一歩間違えれば顧客を失ってしまうようなトラブルは、つきつめると企業の存在そのものまで左右しかねない。もし、部下にそんな問題が起きたのなら、必要に応じて、上司・管理職も謝罪に付き添うのがセオリーだ。

「上司が部下の不始末を詫びるときには、バランス感覚が求められます。社外的には礼を尽くして、また社内的には部下のやる気を削がず。このさじ加減が重要で、このふたつを上手に操ることができればマネジメント能力の高い人物といえます」(高井・岡芹法律事務所会長・人事・労務専門弁護士 高井伸夫氏)

上司として謝罪に付き添った場合、「私の管理不行き届き」「私の不徳の致すところ」といった言葉を忘れてはいけない、と高井氏。なぜなら、ミスをした部下は今後も相手方と密接に接触する立場にあり、ミスの責任をすべて負わせると、その後の営業に差し支えることが多いからだという。

「謝罪に同行した上司は、顧客や取引先などが求めない限り、弁解や弁明はしないことも大事なポイントです。いきなり弁解したら会社ぐるみで言い逃れしようとしていると受け取られかねないからです」(高井氏)

場合によっては、担当者の部下を残し、上司ひとりで謝罪に赴き、その後、改めて部下と謝罪に向かう二段階方式にする方法もあるという。

「担当者はなぜ来ないんだ!」

と先方から指摘されたら、「本人は謝罪に伺いたいと申しておりましたが、まずは監督責任のある私がお詫びにあがるのが筋だと思い……」と責任感のある対応を会社としてするという姿勢を見せるといいのだ。

一方、立正大学講師で心理学者の内藤誼人氏は上司が同行することのメリットを次のように語る。

「“がん首”をいくつも揃えて謝罪にいくと、相手は自分のことを軽んじていないとはっきり目に見える形で理解できます。がん首に肩書は関係ありません。企業幹部である必要はなく、平社員で十分です。とにかく数の論理を優先してコマを揃える。1人だけで『申し訳ありません』というより、例えば連続して3人が謝ったほうが効果的なのです」

心理学の実験でも、少ない人数である特定の人を説得するより、大勢で説得するほうが相手は納得してくれる、という結果が出ている。

謝罪の急所:「私の不徳」とすれば事態好転

高井伸夫(たかい・のぶお)
弁護士。1937年生まれ。東京大学法学部卒業後、1963年に弁護士登録。企業の雇用調整によるリストラ問題、企業再生の各種相談や講演活動をおこなう。
内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学講師。有限会社アンギルド代表としてコンサルティング業務をする一方、執筆業に力を入れる心理学系アクティビスト。
(大塚常好=構成)
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