地味な年金記事を「熟考」できるか?

皆さんは、先ほど述べたGPIFなどが積立金を持っていて、その運用や取り崩しで何とかなると思っておられるかもしれません。実際、先ほどの記事にも、こうあります。

「年金積立金の残高(時価ベース)は186.3兆円と5%増えた。株価上昇で取り崩し額を上回る運用収益があがった」

「186.3兆円」と言うのはとてつもない額ですが、しかし、よく考えないといけません。

この額を年金受給者で割ると、1人当たり470万円程度です。しかも、この積立金は現役世代の分も含めているので、現役世代も含めて約1億人の分だとすると、1人当たり190万円くらいしかありません。

また、その予定した運用利回りは4%程度で、とくに、今回その運用比率を高めた国内株式の予定利回りは6%となっています。そして、前提としているのが1983年から89年までの間、つまり「バブル期」を含めた期間を前提としているのです。

この運用ができるかは不明ですが、いずれにしても、その積立金は減り始めるとあっという間に枯渇するでしょう。そのために、現在でも「税負担で11.5兆円」が必要となるのです。

本来、年金は社会保険料から成り立つ「別会計」である特別会計で賄えるはずの制度が、もう大分前から回らなくなっており、一般会計予算からお金を入れているということになっているのです。

そして、その一般会計も96兆円余りの今年度予算のうち税で賄えるのは、消費税増税や企業業績が好調にも関わらず、50兆円程度しかないのです。残りは主に政府の「借金」ですが、このままでは、大借金がこの先減少しつつある現役世代にのしかかってこざるを得ないのです。

▼「世代間扶助」の仕組みがわかるか?

私は、年金制度は維持できると思っています。

楽観視しているのではなく、給付年齢を現在の65歳から2、3歳引き上げれば、制度自体は成り立つでしょう。一方、この先とても大変になるのは医療・介護です。現状、両方で50兆円程度毎年かかっていますが、こちらも、主に現役世代の負担が大半の「世代間扶助」で成り立っています。

しかし、医療のほうは、年金のように給付の先延ばしをすることはなかなかできません。「病気になったけど、治療を2年待ってほしい」というのはありえません。現状の制度では10数年後に、医療・介護にかかる費用は、80兆円を超えるという試算もあります。制度の抜本的改革が必要です。

いずれにしても、社会保障制度だけでなく、少子化対策、さらには社会保障を支える「成長戦略」なくしては、将来の展望は開けないのです。日本の将来の社会保障制度を決して楽観視しないことが大切です。

経営コンサルタント 小宮一慶(こみや・かずよし)
1957年生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行入行。86年米ダートマス大学経営大学院でMBA取得。帰国後、経営戦略業務などに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役就任。96年小宮コンサルタンツ設立。企業経営の助言の他、講演や執筆も。最新著は『松下幸之助 パワーワード ―強いリーダーをつくる114の金言』(主婦の友社)、『小宮一慶の1分で読む!「日経新聞」最大活用術 2015年版』(日本経済新聞出版社)、『No1コンサルタントが教える 20代の後悔しない働き方』(青春出版社)、『一流に変わる仕事力』(中経出版)など。
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