マヨネーズの賞味期限が記されたビニールの包装を捨ててしまうと、賞味期限がわからなくなってしまって困る、という投書がきたことがありました。普通の人なら一笑に付して、この投書はゴミ箱行きになってしまうところでしょう。包装を捨てなければいいのですから。あるいは、たった一枚の投書ではなく、もう少し投書がきたら考えようとなってしまうかもしれません。
しかし、その一枚の投書に、私はハッとなったのです。包装が邪魔に思える気持ち、包装にある賞味期限というきわめて重要な情報を残さなくてはいけないという実感に共感できたのです。そこで、お客様がどうしているのかを調査することにしました。
調査では、50%のお客様が包装をそのまま捨て、なにもしていませんでした。残る50%のうち、さらに半数の人は、包装を捨てずに最後まで使い切っていました。残りの人は、容器に黒いマジックで賞味期限を書いていました。
そこでマヨネーズのキャップの部分に賞味期限を印字するという発想が生まれたのです。すべてを一から作ったので、工場に新しい機械を入れるなど、お金も時間も随分かかりました。競合他社がこの金脈に気づいていなかったこともあって、発売後、大きな反響を生みました。
売れる商品を作るということは、一人のお客様との直接対話から始まるのです。相手のことを一番よくわかっていないと仕事にはなりません。マヨネーズは毎月100万人以上の方にご購入いただいています。しかし、そのお客様の6割が「満足している」という情報は、商品開発にとって何の意味もない情報です。
(09年11月30日号当時・社長構成=原英次郎)