中東紛争がアメリカの経済を支える!?

アメリカにとっての中東地域のもう一つの魅力は、兵器市場としての存在だ。

かつてのアメリカは大型車が世界中の人気を博し、自動車産業は巨額の貿易黒字に貢献したが、コストパフォーマンスの悪さから、日本や欧州、韓国の中型車や小型車に盟主の座を譲り渡してしまった。

アメリカ経済を支えるもう一つの柱であった繊維産業も、たとえば主力製品である『Lee』や『Levis』といったジーンズを例にとれば、現在はアメリカ国内ではほとんど生産されず、中央アジアの国々に生産をゆだねている。シャツ類も、生産しているのはインドネシアやバングラディッシュだ。アメリカの高い人件費がネックになっているのは言うまでもない。

その結果、現在のアメリカで外貨を獲得できるのは農産品と兵器しかない。中でも特筆されるのが兵器だ。なにせあのミサイルの値段一つとってみても、格安のもので1発数百万円、通常のミサイルで数千万円、高額のものになれば1発1億円を超える。

戦争になればそれらが雨あられとバンバン発射されるのだから、アメリカの兵器産業にしてみればこたえられない。「どこかで紛争が起きて欲しい」と願っているのが本音だろう。

世界の兵器産業を主導しているのは、もちろんアメリカである。しかも、絶えず新兵器が開発されているため、10年に1度は棚卸をしなければならないとされている。つまり、最低でも10年に1度はどこかで戦争が起きてくれないと、アメリカの兵器産業としては死活問題なのだ。そして、兵器産業は強力な圧力団体としても知られている。

そこでアメリカ政府としては、中東地区に常に危険な状態を演出し、当該国に自国の武器を売り込む。あるいは不安を感じている周辺国に対し、「あなたの国の安全を保障してあげるよ」という名目で自国の武器を売りつけ、あるいは軍隊を駐留させる。

さらに言えば、アメリカには「ブラックウォーター」のような訓練を受けた要員と兵器を有する民間軍事会社が次々に誕生している。この業界にとっても、中東の紛争は商売のタネとなる。

つまり、中東の紛争の背後にはアメリカ経済の御都合が存在していて、アメリカはサバイバルのために中東地区の紛争に火を付けているということだ。

※本連載は書籍『面と向かっては聞きにくい イスラム教徒への99の大疑問』(佐々木 良昭 著)からの抜粋です。

佐々木 良昭ささき・よしあき)●笹川平和財団特別研究員。日本経済団体連合会21世紀政策研究所ビジティング・アナリスト。1947年、岩手県生まれ。19歳でイスラム教に入信。拓殖大学卒業後、国立リビア大学神学部、埼玉大学大学院経済科学科を修了。トルクメニスタン・インターナショナル大学にて名誉博士号を授与。1970年の大阪万国博覧会ではアブダビ政府館の副館長を務めた。アラブ・データセンター・ベイルート駐在代表、アルカバス紙(クウェート)東京特派員、在日リビア大使館渉外担当、拓殖大学海外事情研究所教授を経て、2002年より東京財団シニアリサーチフェロー。2014年からは経団連21世紀政策研究所ビジティング・アナリストに就任。
【関連記事】
「アラブ」と「中東」の違いとは何か? イスラム世界とはどこを指すのか?
2015年、世界の10大リスクを検証しよう
イスラム国を育てたのは、いったい誰なのか?
「アジアの夜明け」ASEAN経済共同体は世界経済を救うか
ジャーナリストは、危険地域に行くべきか