合格後も、三段リーグで戦う夢を見る

改めて、“神輿に乗っかれる人”って、どんな人なんでしょう? と問い直すと、堰を切ったように言葉があふれた。

「僕自身もよくわからないですけど、日々のちょっとした事じゃないでしょうか。人に『ありがとう』と言うとか。だって、『ありがとう』と一度思い始めたら、日々『ありがとう』だらけですよ。今、この一瞬お会いしている時ですら、次の瞬間に同じであるかどうかわからない。大袈裟じゃなくて、介護という"濃い"現場で、昨日元気だった人が、朝起きてみるとこの世からいなくなっていて、最後の言葉をきいたのが僕だった……という経験を何度もしているから、新たな人と出会えたということを幸福に感じることができます」

喜怒哀楽の波が、昔ほど大きくは振れなくなったという。

「怒っていても泣いても同じ人生。だったら笑っていられるほうがいい。別にきれいごとじゃなくて、今笑ってなかったら、明日怒ったまま死ぬかもしれない。明日が普通にあるなんて保証はない。本当にわからないですよ、人生って。(昨年8月に)広島で土砂災害に遭って亡くなった方々も、そういう目にあうとは夢にも思っていなかったはず。明日死んでも後悔しないよう、少なくとも自分が目の前で接している人たちが笑っていられるような人生を歩みたい。簡単なことじゃないですけど」

一度きりでも出合った人、今、目の前にいる人を大切にする。きちんとした挨拶や起居動作でその意を示す。その日々の積み重ねが、知らぬところで自分を後押しする力となって返ってくる――夢破れ、放り出された実社会で、身体で悟ったことを糧とし、今泉氏は望み続けたステージにたどり着くことができた。

編入試験を終えてからも、夜、三段リーグで戦っている夢を見たという。

「3勝1敗、上々だなーと思いながら、『あれ? おかしいな……俺、確かもうプロになったような気がするけど……』と思ったところで目が覚めました」

入学試験の夢を見て冷や汗を流す一般のサラリーマンと比べては、失礼かもしれない。盤上に人生そのものを賭けているシビアさを改めて思い知らされるが、戦後最年長、41歳独身のオールドルーキーの先行きを、ぜひ見届けてみたい。

(浮田輝雄=撮影)
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