「編む」技術で、人工血管にも参入

メディカル部門でのもう一つの柱が、人工血管基材です。これも我々が培ってきた「筒状に編む」という繊維技術の応用を模索した結果、たどり着いた新規事業です。筒状に編む技術に加えて、人工血管に不可欠とされる人体へなじみの良い繊維素材を提供できるのも、セーレンならではの強みだと自負しています。いまや国内の大口径人工血管基材におけるセーレンのシェアは6割に届こうとしています。

このように、セーレンの繊維技術がメディカルをはじめとする非衣料分野に広がっています。現在、セーレンのメディカル部門は、総売上1040億円のうち60億円(5.8%)を占めるまでに成長しました(2015年3月期予想)。

こう書くと、いかにも順調に伸びてきたように思うかもしれませんが、基礎研究から応用研究、商品開発まではどの商品も10年以上かかっており、決して平坦な道のりだったわけではありません。どのシーズが芽を出すのか、またどのシーズが失敗に終わるのかは、やってみなければわからないものです。研究を始めたもののうまくいかず、現場からあきらめの声が聞こえてきたことは幾度もあります。

ただ一つ言えることは、新規事業を生むのは、ちょっとした気づきやきっかけで十分だということです。精練工員の手がきれいだ、という何気ない疑問から始まった研究が、いまやメディカル部門を牽引する一大事業に成長しました。

加えて、私たちが大切にする「のびのび・いきいき・ぴちぴち」と働ける環境が、新規事業が花開くうえでプラスに作用したことは間違いないと思います。自社に埋もれるシーズがどのように開花するかは、誰にも予測できません。だからこそ、これからもいろいろな可能性に挑戦していきたいと思っています。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/
(前田はるみ=構成)
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