捨てていた「ゴミ」に、驚きの効能

絹織物の場合、絹糸の表面を覆うセリシンというたんぱく質を除去することで、光沢のある滑らかな布に仕上げることができます。つまり、セリシンは不純物として捨てられるものだったのです。ところが、絹の精練工程で働く人たちの手が白くてツルツルであることに技術者が気づき、セリシンを見る目が変わります。

なぜ絹の精練工員の手はきれいなのか。その疑問を解明するため、1988年、福井大学との共同研究が始まりました。精練の溶液中に溶け出したセリシンを調べていくと、保湿、抗酸化、UVカット、美白、細胞保護など、美肌を保つためのさまざまな機能があることがわかってきました。しかも、人間の肌に非常になじみやすい性質を持っています。不純物として捨てていたセリシンにこれほどの機能があったとは驚きでした。

そこで精練液からセリシンを抽出・精製する技術を開発するとともに、広島大学とも共同研究に取り組み、97年にはセリシンを使った商品第一号としてオリジナル化粧品「コモエース」を発売しました。これは肌の弱い人に向けたアンチエイジングのためのスキンケア商品です。その後、化粧品のアイテムやブランドのラインアップが増え、また育毛剤やサプリメントにもセリシンの用途が広がっています。

99年からは、医療分野での共同研究(広島大学・福井大学)も開始します。研究により大腸がん抑制効果や便秘改善効果を発見。さらにはセリシンに細胞保存・増殖機能があることがわかり、2005年にはセリシンを利用した細胞凍結保存液や細胞培養液を開発しました。08年には、セリシンを利用した細胞凍結保存液でES細胞の凍結保存に成功、さらに11年にはiPS細胞の凍結保存に成功し、その結果を再生医療学会で発表しています。また、人には糖尿病やがんなど生活習慣病を予防する働きのあるアディポネクチンという善玉ホルモンがありますが、このアディポネクチンを増やす機能がセリシンにあることが最近になって発見され、セリシンへの評価が高まっています。