「バブルに背」が正しいわけではない

当然、社の内外から疑問の声が上がりました。私の指示に納得がいかなかった不動産融資担当の幹部の中には、部下を引き連れて会社から出て行ってしまった人もいたほどです。しかし、私もまだ若かったこともありますが、そこで撤退してもトータルでは赤字にならないという確信がありましたから、押し切ることができました。

撤退の号令からおよそ1年でバブルは弾けました。その後多くの同業者が経営破綻して、それは銀行や証券会社にも及びました。経済界のみならず「霞が関」も時代を読み解くことができず、長年バブルを放置したその失策は、日本経済の長期停滞という事態を招くことになりました。

では、その当時、バブル経済に背を向けて不動産事業に一切関わらない方がよかったかというと、それは正しい判断ではないと今でも思います。「バブルは悪」と決めつけるのは簡単ですが、その波に乗らなければビジネスチャンスをみすみす逃すことにもなり、期待される収益を上げられなかったことも事実です。

ビジネス社会に生きる以上、時代の流れに寄り添い、経済のダイナミズムを敏感に感じ取りながら、時代の求めるものを他社に先駆けて発信しつづけていくことが、企業活動には求められます。しかし、同時にいつも足元を見据え、はたしてこのまま走りつづけていいものか、どこかに落とし穴はないか、と危機感をもって自らの行動を冷静にジャッジする思慮深さも必要です。

時代の変化を素早く察知して機敏に行動しつづけながら、一方で細心の注意を払ってリスク回避に努める──。一見相反するスタンスのようですが、こうしたセンスを養うことで時代を客観的に捉え、時代がもたらす恩恵をこうむることができるようになるのだと思います。

※本連載は書籍『グッドリスクをとりなさい!』(宮内義彦 著)からの抜粋です。

宮内義彦(みやうち・よしひこ)●オリックス シニア・チェアマン。1935年、兵庫県生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学にてMBAを取得後、日綿實業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現 オリックス)に転ずる。70年取締役を経て、80年社長兼グループCEOに就任。2000年会長兼グループCEO、14年より現職。ACCESS取締役、ドリームインキュベータ取締役も兼務する。
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