キヤノンが昨年12月に発表した増配は、株式市場でポジティブサプライズとして受け止められた。2014年の年間配当は、前期比20円増の150円と過去最高を更新。前期に実施した計1500億円の自社株買いによって配当総額を抑え、そのぶん個別配当にまわした形だ。
では、キヤノンの業績はそれだけ絶好調かと言えば、必ずしもそうではない。確かに財務的には2期連続の増収増益で堅調だが、主力のデジタルカメラ事業はスマホ普及の影響などもあって市場全体が世界的に収縮。将来的な成長は見込めず、円安効果によってなんとか利益を確保している。かつては、中国などでキヤノンのカメラはヴィトンのバッグなどと同じファッションアイコンとして人気だったが、尖閣諸島の問題などでそのブームも去ってしまった。
今後は、医療機器や監視カメラなどB2Bを強化していく方針だが、ここまで企業規模が大きいと業態を変えるのは容易ではない。
さらに後継者問題も大きな懸念材料だ。御手洗冨士夫会長兼社長が、1995年に社長に就任して20年。カリスマが強すぎて、後継者が育っていない。御手洗氏が経団連の会長を務め、キヤノンから離れていた間、主要な製品のシェアを軒並み落としたことがそのことを物語っている。
株価については、冒頭のように配当をうまく活用して、「高配当株」として投資家から一定の支持を得ていることが下支えになっている。競合他社と比べてもキヤノンは国内生産比率が高く、円安の恩恵が大きいことは明るい材料だ。
最近、その円安の影響でメーカー各社が国内製造を視野に入れ始めたが、キヤノンは超円高でも雇用と技術を守るため、できる限り拠点を国内に残した。一産業ウオッチャーとしてみれば、その崇高な経営理念を尊敬する。課題をうまく乗り越えることを期待したい。
(和田木哲哉 構成=衣谷 康)