血糖値の管理でがんのリスクが下がる
肝臓がんのリスクが高まるのは、糖尿病の人に多い脂肪肝との関連が指摘される。脂肪肝とは肝臓の30%以上が脂肪化している状態で、自覚症状はない。これまで日本人の肝臓がんは、B型・C型肝炎ウイルスまたはアルコール性肝炎が原因の人が多かったが、最近は非アルコール性脂肪肝(NASH)から肝硬変、そして肝臓がんになる人が増えているのだ。また、すい臓はインスリンを分泌する臓器であり、糖尿病の人がすい臓がんになりやすいことは国内外で以前から指摘されてきた。
「すい臓がんやその治療によってインスリンが不足したり出なくなったりして糖尿病になる場合もあり、糖尿病の陰にすい臓がんが隠れていることもあります。糖尿病の人は、食事療法、運動療法、禁煙、節酒、あるいは薬物療法で、血糖値をコントロールすることががんのリスクの軽減にもつながります。糖尿病は初期には症状がありませんから、1年に1回は健康診断を受けて糖尿病かどうかチェックすること、血糖値が高いと言われたら適切な治療を受けて血糖値をコントロールすることが重要です。なお、一時期インスリン注射など、糖尿病治療によってがんが増えるのではないかと言われたことがありますが、現時点ではそういった証拠はなく心配する必要はありません」と岩岡さんは強調する。
糖尿病かどうかは、空腹時血糖値、食後血糖値、1~2カ月の血糖値の平均であるHbA1c、をもとに診断される。中には、がんと診断された時に糖尿病だと分かる人もいるそうだ。「血糖値が高いと、手術後キズが治りにくく感染症になりやすくなり、抗がん剤の効き目が悪くなる場合があります。がんの患者さんにとっても、手術前後、抗がん剤治療中の血糖コントロールは重要です。がんの専門病院には、糖尿病の専門医がいない場合があります。糖尿病の人ががんの治療を受ける時には、糖尿病専門医のいるがん診療連携拠点病院や大学病院で治療を受けたほうがいいでしょう」と岩岡さんは強調する。
手術が必要な患者が、(1)空腹時血糖値200mg/dl以上、(2)食後血糖値300mg/dl以上、(3)HbA1c10%以上のどれかに当てはまる場合には、インスリン療法で血糖値を下げてから手術を行うケースが多いそうだ。「血糖値が非常に高いまま手術をすると、合併症を起こしやすいため手術自体のリスクが高くなってしまいます。インスリンを使えば、1~2週間くらいで血糖値が正常に近い値になります。がんの専門医と相談して糖尿病治療と手術のどちらを優先するか検討しますが、ほとんどのがんでは、血糖コントロールのために1~2週間手術の時期が遅れても悪影響はないとされています」(岩岡さん)