営業トークの世界に客を誘い込む
女性はいきなり「肩が重い~」とトランス状態になって叫び始めたではないか。予想もしていない状況に私が驚くと、もう一人の女性整体師が解説する。
「これは今のあなたの心の状態です!」
整体師は、「このままじゃ、やっていられねえよ!」と突然、口ぎたない言葉で罵り始めると、すかさずもう一人の整体師の女性から質問が飛ぶ。
「彼女の言葉はあなたの魂の叫び! 思い当たりませんか?」
さらに、トランス状態の女性は「暗~い。あなたの魂は闇の中にいます。自らの魂の叫びを聞かなければなりません!」と叫び出し、それに合わせるように、女性は「お悩みをお話しください!」と言ってくる。
そこで、私は「仕事が忙しいのに、お金がなかなかたまらず、疲れだけが残りますね」などの答えをしておいた。この行為が終わると女性は「あなたの邪気はひどいので、治療の継続が必要です」と言う。
さらに、「両手を前に出して、(神様の)エネルギーを受け取りましょう」と新たな指示する。
「わかりました」と言ったものの、これまでのなすがままの施術とは違い、今度は自らが儀式に参加する行為だったので、恥ずかしさも手伝い、形だけのポーズをとった。しかし、女性は私の心が入っていいないことに、怒鳴り出す。
「もっと一生懸命やってください! それでは、エネルギーは入りません。手に意識を集中させて!」
繰り返し、腕を伸ばすように指示される。長時間この行為を続けさせられるので、腕が疲れ始め、苦しくなってきた。限界に達しそうだったので、私は力なくクビをうなだらせ、本気でトランス状態に入ってみせた。
女性はそれを見て、「いい感じで、エネルギーが入っていますよ」と上機嫌になった。さらに白目ぎみの行為をすると、女性は「はい、エネルギーが入りました」と言い、ようやく儀式は終了となった。
彼女らの目的は、邪気を払うという名目で、私をこの場所へ何度も通わせることである。
そのために、施術を受けるだけの立場から、エネルギーを受け取るという積極的な行為に関わらせてきた。ここには当事者目線に変えさせることで、私の主体性を引き出し、次回の約束を取り付けるという狙いがあった。
しかし、私は心の中で、「やらせられている」という客観的に自分を見つめる意識を持ち続けたので、彼らの罠にはハマらなかったが、このテクニックを知らない多くの人は知らぬ間に相手の思い通りに誘導されてしまうことになる。