道州制が実現したら州都を目指す

【塩田】道州制は人口減少や地方創生の問題解決にどういう効果が期待できますか。

【蒲島】みんな東京に行ってしまって、子供を産みにくくなりますね。それはしばらく続くかもしれないけど、だんだん行く人がいなくなります。東京の強さと地方の強さは、ウィンウィンの関係です。それを一番早く理解できていたのは自民党で、最初の頃は都市で得られた所得を惜しげもなく地方に分配し、都市も農村も両方とも経済成長の便益を受けました。

ところが、経済成長の果実がなくなって、それができなくなりました。さらに世代が代わって、都市と農村の絆が弱くなってきました。昔の自民党の政治家たちは、実際に田舎で育ち、東京に出て成功した人たちです。故郷への愛情みたいなものがあり、所得を分配しました。今はまったく違います。だから、道州制を実現したらどうかというのが私の主張です。

道州制が目的ではありません。熊本県民や九州の人の幸せは道州制のほうが実現しやすいと思うからです。パラダイムシフトと言うけど、幸福量の最大化への影響を考えると、制度として中央集権型行政よりも道州制のほうが優れています。

人口減少も、九州の単位でとどめておけば、十分、雇用の場もあり、子供を産みやすい状況です。九州の可処分所得は東京より30%も上でしょう。統治のサイズがとても大事です。オランダやデンマーク、スウェーデンなどでは、社会福祉と成長が両立しています。革新的な政策をやっていて、人口減少も止めています。オランダ、デンマーク、スウェーデンなどと同じくらいの大きさの九州は、とても可能性があると私は思っています。

熊本県知事ですから、「夢の政治学」として言えば、道州制実現のあかつきには、熊本は州都を目指すことを私はずっと言い続けています。

【塩田】日本の歴史を振り返って、現代という時代、政治が果たすべき最大の役割は何だと思いますか。そのために政治リーダーが備えていなければいけない条件とは何ですか。

【蒲島】4000年前のソクラテスの言葉ですが、「君主というものは、己のためではなく、己を選んだ者たちの幸福のために選ばれるのだ」(クセノフォン『ソクラテスの思い出』)と言っています。私はずっと前からこの考え方ですが、これが一番、重要だと思います。

当然、自分の我もあるし、もちろん信念もあります。ですが、自分の信念を実現するために政治家になったわけではなく、私を選んでくれた県民の幸せのために選ばれたのだから、それに忠実に沿っていく。これが政治の原点です。ただ、そのためには「精神の自由」も必要です。ある種の統治能力も備わっていなければなりません。

蒲島郁夫(かばしま・いくお)
熊本県知事
1947年1月、熊本県鹿本郡稲田村(現山鹿市)生まれ(現在、68歳)。熊本県立鹿本高校卒業後、地元の稲田村農業協同組合に就職し、68年に農業研修生として渡米。71年にネブラスカ大学農学部に入学。大学院修士課程修了後、79年に32歳でハーバード大学大学院博士課程修了。以後、ワシントン大学国際問題研究所客員准教授、プリンストン大学国際問題研究所客員研究員、筑波大学教授などを経て、97年に東京大学法学部教授。専門は政治過程論、計量政治学。2008年に辞職して3月の熊本県知事選に出馬・当選。現在2期目。著書は『政治参加』『戦後政治の軌跡』『私がくまモンの上司です』など多数。学者としてやり残したのはMRIを使って政治的情報がどのように処理されていくかを研究する「脳政治学」だという。