昭和シェル石油では、11年の8月に新たな人材ビジョンとして、(1)自律考動、(2)外向き志向、(3)チーム意識、の3つを導入した。言い換えれば、それが変革期に求められる社員像ということになる。私が常々、社員に問いかけているのは「もし、あなたが社長で、資金を投じるとなったら、リスクを覚悟で、その事業をやるか?」ということである。つまり会社全体を俯瞰し、経営者マインドを持って、日々の仕事に取り組んでもらいたいのである。

その際、みずからが所属するセクションの部門最適を優先したのでは、会社の全体最適とはならない。日本企業の多くは、往々にして所属部門の最適化が図られがちだ。けれども、国際競争力という観点からすれば、成長が期待できる分野にヒューマンリソースを再配分していくことは当然のことだ。

優秀な人材は適材適所で登用する

社員には、2つの能力発揮の仕方があると思う。(1)創造力と、(2)業務遂行力だ。人材登用の観点からすると、できれば、このどちらかを伸ばしてほしい。頑張った人たちには適材適所のポストで報いる。両方をあわせ持っていれば、さらに引き上げていく。当然、年功序列という制度は実情にそぐわなくなる。優秀な人材は、年齢、性別、国籍にかかわらず登用するということを意味する。

また、そうした人材を見つけ出すのが私の役目である。最近では、会長という立場で社員たちと接点を持つわけだが、それでも会える人数には限りがある。心のどこかで「私の知らない隠れた人材が埋もれているのでは……」と思い悩んでいる毎日だ。

社員の成長・進化以上には、会社の発展はないというのが、私の基本的な考え方だ。社員には成長する機会を積極的に提供する。教育あるいは訓練というと、従来は会社が与えるものだと考えられてきた。だが、もはやそれだけでは、人は育たない。

自律という意味は、みずから意欲的に教育機会をつかみ取っていくことである。会社は社員教育制度として「こういうものがある」と職階別・熟練度ごとにカリキュラムを用意する。社員はそれに応募して、自己研鑚していくというのが本当の姿だろう。そのためには、社員一人ひとりが、明確な目標を持つ必要がある。たとえば、サプライのスペシャリストの道を歩むのか、マーケティングのプロを狙うのかを決めて、どのプログラムを選択するのかは、それぞれの自由だ。これは義務ではない。成長するための権利と考えてほしい。そういう社員を会社は評価する。