アイデアをロジカルに伝える

リブセンス社長 村上太一氏

私が当社で使用している人事ビジョンに、「Y字型人材」という言葉があります。最近よく言われる「T字型人材」は、多様な分野に浅く広い知識を持ちながら、その中で一つの領域に深い専門性やスキルを持っている人材を指します。「Y字型人材」とは、それをヒントに考えた言葉で、「2つの異なる能力や考え方を併せ持つとともに、それらをかけあわせてより高い成果を生み出せる、乗算的な人材」です。

この人材のイメージは、「あたりまえを、発明しよう。」という当社の経営ビジョンから生まれたものです。「あたりまえ」を発明するためには、まず“いま”の「あたりまえ」を疑うことから始めなければなりません。しかし、どんなに素晴らしいアイデアを思いついたとしても、社会に広めることは難しい。「発想」の後の徹底的な努力なくして、新しい事業を社会に根付かせることはできないわけです。

リブセンスの社名ロゴには「?」と「しずく」が組み合わせられています。「?」は当たり前を疑う疑問の視点、「しずく」は雨だれ石を穿つという精神を意味します。あるひとつのアイデアが素晴らしいものだと思えば、次に雨だれが石に穴を開けるように徹底して広げていく。その両者の大切さをマークにも込めています。

考えてみれば、「アイデア」と「徹底」という言葉は、ビジネスの現場ではどこか相反する響きがあります。あるいは「挑戦」と「継続」といった2つの言葉でもいいでしょう。こうした相反する要素を両方持っている人、さらには相矛盾する要素を同時に自分の中に取り込んでいける人が、「あたりまえ」をつくり出していく。「Y字型」とはそのような意味です。

社員の選考方法でも「?」と「しずく」を、なるべく意識的に組み合わせるようにしています。

以前、採用活動を行う際、「チョコボール試験」というものを思いつき、試してみたことがありました。応募者に森永製菓のお菓子であるチョコボールがどのようにつくられるか、製造工程を想像してもらう。つくり手の視点を持っているかどうか、という「?」の視点を見たわけです。

別の採用試験では、カウンターを全員に渡して、ただひたすら数を数えてもらったこともあります。真面目に数えるかどうかは人それぞれですが、そこでは後でカウントする際の考え方を聞き、「徹底」の視点をどのように持っているかを評価していきました。