こうした私たちの人材への想いは、実際に事業をつくり出していく過程で、自然と生まれたものでした。アイデアだけでは事業は広まらない。徹底的なだけでは大きな成果が生まれない。いまという時代には多様性が必要だと多くの人たちが語るのは、そのように一つの軸だけではよいものが生まれない時代だからでしょう。

その意味でもう一つ、同じく事業をつくっていこうとする中で私自身が求められてきたと感じていることがあります。それは「右脳と左脳のキャッチボール」ができる能力が、事業を発想したり継続したりするうえではとても大切だということでした。

これも「Y字型人材」の「異なる能力を持つこと」に通ずるのですが、実際の仕事の現場では何かのアイデアが生まれた際、その発想が生まれた理由を数字に置き換えることを幾度も求められます。右脳での発想を数値や言葉でロジカルに伝える――創業時のメンバーを見ていても、それを求められる中で自然と成長していった仲間が多いように思います。

事業を続けていると感情を言葉に変える必要にかられることがよくあります。例えば私は当社の事業のポリシーを語るとき、「幸せから生まれる幸せ」という言葉をよく使います。「あたりまえを、発明しよう。」というビジョンのさらなる前提として、周囲を幸せにすることが自身の幸せでもある、という想いがあるからです。当社が運営するアルバイト求人サイト「ジョブセンス」を成功報酬型(採用が決まるまで費用がかからない仕組み)にしたのも、雇用された際に応募者へお祝い金を出すことにしたのも、その想いから生まれた発想でした。

でも、実はこの「幸せから生まれる幸せ」という言葉、創業時にはまだ言語化されていなかったビジョンなんです。当時の私は「なぜ会社を経営するのか」と問われたとき、単に「やりたいから」と答えていました。嘘偽りのない感覚でしたが、一方で事業を実際に行っていくと、その感覚を言葉にしなければならない局面にぶつかります。

少人数の組織においては、一つの感覚を言葉にしなくてもみんなで共有することができました。むしろあえて言葉にしないことが、「言葉にならない感覚」を共有した強いチームワークにつながっていく面もありました。

しかし、組織の人数が増えると、今度は感覚だけの共有が難しくなっていきます。その中で様々な社員の意識のブレを少なくしていこうとするとき、「幸せから生まれる幸せ」といった言葉や、「Y字型人材」という考え方も生まれてきたわけです。