大体、メーカーのセールスというのは随分程度が悪い。特に日用品業界の営業マンは自分で売る努力をしているわけではなくて、店の棚を取る商談をしているにすぎない。それで「わが社の商品は高い」だの「品質が悪い」と文句をたれる。だからよく言うんです。「放っておいても売れる商品なら、自動販売機でいい。おまえらなんて飼っておかねぇよ」って。

私はエステーに入る前に保険会社で、法人営業の仕事をしていた。保険会社のセールスは売れなければ脱落していく。だからセールスマンシップを身につけた営業マンだけが自然と残るんです。セールスマンシップとは何かといえば、コミュニケーション能力です。ではコミュニケーション能力とは何かといえば、相手の話をよく聞くことなんです。保険営業を始めた頃、セールスの研究をするためにいろいろな業界のトップセールスの人たちに会いましたが、おしゃべりな人はいなかった。

セールスマンシップのある人は、相手に気持ちよく話をさせるのがうまい。相手の興味があるところにポンと話を投げ込んで、相手から話を引き出すんです。たとえば自分の子供がいい学校に入ったなんて話は、喉元まで出かかっている。でも自分から言うのは自慢するみたいで気がひける。そこに「お嬢さんが素晴らしい学校に入られたそうで」と話を振れば、機嫌よく話し始める。相手が話したい話題を提供すれば、いくらでもしゃべってくれます。

では相手に話をしてもらうにはどうしたらいいか。準備がすべてです。

私は知らない人と会うときは、徹底的に相手の研究をする。生まれ育ちや家族関係、わかる限りのデータを調べます。その人が本を書いていたら、全部読む。保険のセールスをしていた頃はそれが常識でした。

スピーチをするときも、役員会で話をするときも私は入念に準備をして臨みます。事前に準備しなければ、言いたいことを簡潔な言葉や一つのキーワードにはできませんからね。

エステー会長 鈴木 喬
1935年、東京都生まれ。都立新宿高校、一橋大学商学部卒。59年日本生命保険入社。85年エステー化学工業(現エステー)に出向、86年に転籍。取締役を経て、98年社長に就任。2012年会長に就任。著書に『社長は少しバカがいい。』がある。

座右の銘・好きな言葉:運と勘と度胸
座右の書・最近読んだ本
:『君主論』マキャベリ
尊敬する経営者・目標とする経営者
:原田泳幸(日本マクドナルドHD会長兼社長)
私の健康法
:スキー、自転車

(小川 剛=構成 尾崎三朗=撮影)
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