営業から投資銀行へ異動で知った「壁」

野村ホールディングス
グループCEO 永井浩二氏

会社を根底からつくりかえる――。昨年7月、経営体制を一新させ、グループCEOの交代を発表した記者会見で、私が口にした言葉です。新聞記事の見出しにもなったので、発言の真意についてたびたび聞かれます。たしかに会見の中で話した言葉なのですが、実は私自身はよく覚えていません。あらかじめ用意したわけではなく、無意識に自分の口から出た言葉でした。

発言には2つの意味がありました。一つは信頼回復です。一連の増資インサイダー問題ではお客様に心配をおかけしました。今回の事案を振り返ると、社会的使命や倫理観などが希薄化していたと言わざるをえません。今後は改善策を徹底して進めていきます。もう一つはセクショナリズムの打破です。

証券業はこの十数年で急速に複雑化してきました。これまでは株や債券の売買や発行を仲介して手数料をいただくビジネスが中心でした。ところが現在では、企業合併や買収、巨額の資金調達など証券会社の果たす役割は大きく広がっているうえ、海外との取引を希望するケースも増えています。当社でも高度で専門的な知識をもつ人材を育ててきました。

専門性を高めることは重要です。しかし、自分の業務に責任感をもつあまり、部署ごとにしきたりやルールをつくるようになる。すると他部署の干渉を遠ざけ、異物を排除するようになる――。私はずっと「これはおかしいぞ」と感じていましたが、こうした「大企業病」を治すには経営トップの強い意志が必要です。このため、グループCEOに就任したとき、第一にセクショナリズムを破壊しなくてはいけないと考えました。そのために「すべてはお客様のために」というメッセージを掲げたのです。そのうえで人事に取りかかりました。