今年4月の人事異動では国内のグループ社員約16000人のうち1132人に辞令を下しました。これにはリテール(営業部門)からホールセール(法人部門)への異動など、部門を超えた人事が含まれます。また役員には昨年9月から「管掌以外の部署・支店を訪問する」という課題を与えています。ノルマは4~5部店。最初は新人時代の配属地で、それ以外は無作為です。
これまでファイナンス担当の役員が地方の支店を訪ねるようなことはありませんでした。部門間の壁があったからです。しかしそのままでは野村グループのビジネスを一体として理解することができません。
こうした問題意識は、経験に根ざしたものです。私は入社以来、リテール一筋で個人や中小企業のお客様との取引を担当してきました。ところが40歳のとき、突然、投資銀行部門に移ることになったのです。これは私の会社人生でとても大きな経験となりました。
最初の社内会議に出たときのことをよく覚えています。聞き慣れないカタカナばかりが飛び交っていて、会議の内容がまったくわからない。同じ会社なのに、どうしたことかと思いました。後からよく理解すると、大した内容でもない。専門用語さえ使っていれば仕事をしているような風潮がありました。
部門を飛び越えると、こうした文化の違いがよくわかります。リテールにいたときには、株式や社債を引き受けてくるホールセール部門に対して、「営業に押しつけるだけで気楽なものだ」と思う。ところが自分が法人部門の立場になると、資金調達を引き受ける苦労がわかる。営業部門に負担をかけるような無理な引き受けをすべきでないことも実感します。これは両方を経験してみないとわからない。だから部門間の壁を壊したいのです。