要介護者は約600万人。その家庭の多くが介護鬱や介護離職になっているわけではない。むしろ、親の介護を完全に投げ出す人が増えているのだ――。

親の介護を深刻に受け止めない人たち

昨年のちょうど今頃、私は父親の介護に追われていました。体の衰えとともに認知症が進行し、昼夜を問わず呼び出されて疲労は蓄積。精神的にも不安定になっていました。

介護をしていたのは約1カ月半という短い期間でしたが、嵐に見舞われているような日々でした。当欄では、その時に体験したことや心境、介護を通じて知り合った人たちに話を聞き、介護現場の現状などを書いてきました(バックナンバー参照)。

父の死と同時に介護の当事者としての役割は終わりましたが、介護を体験したことでテレビなどのメディアで取り上げられる介護の事例は身近な問題として受け止めるようになりました。取り上げられるのは介護鬱や介護離職といった大変な話ばかり。現在、600万人近い要介護者がいるようですが、その家庭の多くが、私が体験したような、つらさを味わっているのだな、と思っていました。

ところが、必ずしもそうとは限らないことを、つい最近会ったケアマネージャーから聞きました。

介護現場の現状について介護用品レンタル会社のIさんという人に私はしばしば尋ねます。介護用品レンタルの担当者は多くのケアマネージャーと接します。そうした立場上、ケアマネージャーの良し悪しを客観的にジャッジできるわけですが、そのIさんが「ベスト・ケアマネージャー」と語るFさんを紹介してくれました。そのFさんが開口一番こう言うのです。

「親が要介護になっても、他人事みたいな感じで、そう深刻に受け止めず、我々介護サービス事業者に介護を丸投げする人が結構いるんですよね」

ケアマネージャーは介護福祉士や社会福祉士、看護師などの資格を持っていて、5年以上の実務経験がないと受験できない難関資格です。ホームヘルパーとして介護業界の門をたたいたFさんは、当初「自分の親が大変な状況になっているのだし、9割ぐらいの人は真剣に介護に取り組むだろう」と思っていたそうです。

ところが、現実はそうではありません。要介護状態になった親の心配をする素振りは見せず、むしろ冷淡。自分の手で介護をすることはほとんどなく、サービス事業者にすべてを任せたいという態度をとる人が、かなりいるのです。

世の中にはさまざまな親子関係があります。子どもの頃、親から虐待を受けていた人もいるでしょう。そこまでいかなくても、意見が対立するなどして冷え切った親子関係にある人もそれなりの数いるはずです。

Fさんは「家庭の事情は外からうかがいしれないものですが」と前置きをしたうえで「でも、それほど親子関係に問題があるとは思えない人でも、親の介護なんかしたくないという人が結構いるんですよね」といいます。

ケアマネージャーとして、多くの要介護者とその家族と接してきた今、親の心配をし前向きに介護に取り組む人と、やる気がない人の比率は半々ぐらい、という感覚になっているそうです。