グローバル化、業界再編、リストラ……、企業を取り巻く環境は激変している。ライバル会社はどうなっているか、徹底レポートする。
年功序列の出世階段に異変
ある自動車メーカーの人事担当の幹部は「部課長などに昇格した場合、周囲が納得する人事であればいいが、うまくいくケースは少ない」と実情を話す。自動車産業の変化のスピードを考えると、従来のような企業風土では海外のグローバル企業と比較すれば、後塵を拝するばかりだ。
年功序列を重んじてきたトヨタ自動車でも最近は“出世の階段”に異変がみられる。管理職の若返りである。例えば、基幹職1級(部長相当)に昇進した40代のあるリーダーは10人ほどのグループ内で本人より年下はわずか3人。社歴では先輩の“部下”に仕事を指示するときは「割り切るしかない」と開き直る。そのリーダーはバランス感覚がよく人望も厚いために不協和音は感じられないというが、自ら歩んだキャリアを振り返って「スムーズに仕事を行うためには若手のころから幹部候補の育成が必要だ」と痛感する。
トヨタは今年から入社4年目以降の若手社員を対象に「修行派遣プログラム」を新設。海外の現地法人への出向や、外国の大学院でMBAを取得するなどの制度を始めた。トヨタでは30代半ばまでに出世の分かれ道が決まる。一時期新卒生の採用を抑制した影響で30歳前後の中堅社員の数が極端に少ない。一方で、最近の就職人気企業ランキングを見ても、自動車メーカーは不人気で「優秀な人材が集まらない」(前出・幹部)危機感もある。トヨタの制度は若手社員の早期育成と能力向上を目的としているが、そのプログラムに挑む社員が次の世代を担う幹部の有力候補になることは間違いない。
すでに、日産自動車では、ゴーン体制のもとで「ハイポテンシャルパーソン」という将来のリーダーにふさわしい候補者を発掘する組織を設けている。日産はダイバーシティ(多様性)を積極的に取り入れているが、外国人や女性を含め世界で150人以上がリストアップされており、計画的な人材育成に取り組む。選定基準は対話能力や語学の堪能さよりも会社の行動指針に準じて機敏に仕事ができるかどうかが決め手。もっとも、日産の場合「英語は必須条件」だ。生え抜きの管理職や役員の顔ぶれを見れば海外駐在の経験者が圧倒的に多いことも見逃せない。
ホンダの場合は、技術系と事務系では昇進のパターンが違う。歴代の社長は本田技術研究所社長の経験者が不文律。最近は、「枠にはまらない」破天荒な社員よりも、無難に仕事をこなす保守的なタイプの賢い社員が出世する傾向にある。それが「軽」などのヒット車を連発するパワーになっている。