店頭に大草原が広がる
木内たちはパッケージや売り場づくりにも工夫を凝らす。「うす型軽快」なら、グリーンのイメージを主体に、太陽の下を楽しげに歩く熟年夫婦のイラストが描かれている。一方、ドラッグストアなどでの陳列に当たっては、軽度失禁用というカテゴリーがわかるように商品価値を明記したPOPを用意した。
「わざとポジティブなパッケージにしています。デザイナーとも話し合って、大草原が広がっているイメージを出した。熟年層に、この紙パンツをはいてどんどんハイキングや旅行に出かけてほしいですから」
このように願う木内は、高齢者の元気は周囲にも好影響を与えると信じている。木内の言葉からもわかるように、ユニ・チャームのヘルスケア用品は社会問題解決型の製品といえる。これらはベストセラーになりやすく、やがてロングセラーに成長し、ユニ・チャームという会社の存在意義を高める。同社は、生理用ナプキンの製造販売を手がけた創業時から、常にナンバーワンの価値をもたらすことをめざして企業活動をしてきた。
社長の高原豪久は、01年6月に先代で創業者である父・慶一朗からバトンを受け継いだ。以来13年余り、時代は少子高齢化に向かい、同社の事業領域も大きく様変わりしたと高原は説明する。
「社長に就いてすぐ、新しいCIを導入しました。それまで『NOLA&DOLA』のLは“Ladies'”、つまり女性だったわけですが、グループが尽くすべき対象は生活者全般に広がった。そこでLを“Life”に変えたことによって、高齢者の生活支援、ペットケアという成長分野をターゲットにできたのです」
ただし、果たすべき役割はまったく変わらない。生理用品が、女性から生理時の不快を少しでも取り除こうとしたものなら、ベビー用や大人用の紙おむつは、子育てや介護の負担や不具合を和らげようとしてきた。
日本では、65歳以上の高齢者が3000万人を超えた。もはや高齢者が尊厳を保ちながら暮らせる社会づくりは待ったなしというところまできている。その意味で、ユニ・チャームの主張する「いつまでも、自由で自立・自律した人生を!」という言葉が、より重みを持つ。
そのことは、長い不況にあえいできた日本の経済の活力という視点から考えてもわかる。これからの消費のコアは間違いなく金融資産を多く保有している高齢者層である。アベノミクスの第3の矢、成長戦略を支える人たちということもできよう。
「私どもの商品は病気としての排泄障害を治すことはできません。けれども、紙パンツを使ってもらうことによって運動機能を維持していくことはできます。リハビリパンツの発売時には『寝たきりゼロを目指して』というスローガンも掲げ、市場を創造してきました。ただ、極端な言い方をすれば、われわれの作る大人用の紙おむつは使われなくなる世界がいいと」(高原)
上場企業トップの発言としては思い切ったものだが、ある意味では、2代目オーナー経営者らしい懐の深さが感じられる。そして、こうした信念の経営のなかで達成される企業価値こそ本物といえよう。
(文中敬称略)