アインシュタインではなく、日本のエジソン

だが、すべてはこれからである。文字どおりの新天地だ。中村は天才的な閃きによって新しい理論を構築したわけではない。自分にできないことはないと信じ込んだ、一徹な職人芸が有機金属気相成長装置を作り、青色のホタルや剣を出現させた。非凡ではあるが、愚直である。日本のアインシュタインではなく、エジソンと言うべきか。

自分の構築した理論で次々と新しい世界を切り開き、メシを食べていくタイプの研究者ではない。青色LEDやレーザーはすでにほぼ開発し尽くした。その周辺にまだ大きな可能性はあるだろうが、青色の頂上近くに達したと自分では感じている。当分は青色に関連した開発を進めはするが、本当にやりたいのは、また自分をどん底に落とすことになる、新しい何かである。その何かが何であるかはまだ掴めない。

「5、6年もすれば、新しい物を作り出せるでしょう。学術研究じゃなくて、何か物を作るということを最終目標にしたい。ずーっと会社で働いてきましたからね。理論だけではメシが食っていけないというのがわかりまして」

日本はモノ作りに強いと言われる。その日本で生まれたモノ作りの天才が、日本ではなく米国で永住の覚悟を固め、新しい世界を見いだそうとしてるのは、日本にとって不幸なことである。

中村は、再びコンチクショーの毎日を始める。高校時代の同級生で、東京でコンピュータ関連の仕事をしている片倉修は、米国の中村にあててEメールを送った。送り主の了解を得たので、最後に骨子を紹介しておこう。

「ゼロからのスタートだと思う。期待されている分マイナスからのスタートかもしれないが、雑音に邪魔されずに頑張ってほしい。君がやってきたこと以上に、新しい世界にチャレンジしようとしている、そのこと自体に敬意を表したい。これからの通過点の一つとして、ノーベル賞受賞があればうれしいね」

※プレジデント2000年7月14日号「中村修二 青色レーザーを生んだ『考える』執念」より

(早坂卓=撮影)
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