四国発、世界を驚かせた「青い光」

その日の夜、中村修二(当時37歳)は研究室のドアに鍵をかける前に、もう一度、中の暗がりを覗き込んだ。器具や材料が散らかった机の上に、ぼんやりと青い光が載っている。まるで大きなホタルのようだ。

「どうせ、明日まではもたんぜ」。中村は呟いた。光を放つ、その小さな装置は青色発光ダイオード(LED)と呼ばれている。電圧をかけると、光を放つ半導体である。赤や緑はそれまでに開発されていたが、青はまだないに等しい。ほんの数秒だけ光って消えてしまう。もし、明日の朝まで光り通してくれたら、世界中の研究者がこの20年間、躍起になって取り組んで誰もできなかった快挙を、なし遂げることになる。

その夜、ふとんに入ってからも浅い眠りを繰り返すだけで朝を迎えた。会社へと急ぎ、もどかしい思いで研究室のドアを開けた中村は、言葉にならない叫び声を上げた。薄暗がりの中で、青いホタルが昨夜と変わらぬ玄妙な光を放ちながら、中村を待っていたのだ。

それから4年後の1995年、中村は青色のレーザー光線を開発した。朧げなホタルは、輝く光の剣になった。中村の一連の研究成果は、社会を大きく変えようとしている。手近なところでは、交通信号機の緑が鮮やかな青になる。米国ではいま信号機のLEDへの切り替えが急ピッチで進んでいる。テレビも変わる。現在は電子を蛍光体に照射して色を出しているが、LEDは電圧をかけるだけでいい。効率が良く寿命も長いから値段も安くなり、薄さまも追求できる。

青のLEDができたことによって、白色LEDも可能になった。白は実は微細なさまざまな色の混合体である。あまりにも微細なため、人間の目が識別できないだけだ。青が加わり、すべての色が作れるようになった。白もそのうちに入る。白のLEDはいずれ白熱電球を駆逐するだろう。寿命が長く、省エネ効果があるからだ。