いま全国11カ所の菜園の平均的な単位収量は、欧州視察時のオランダの平均値である約40トンだという。
「向こうでは100トンという施設もありますから、この数字はまだまだ伸びる」と農事業企画部長の藤井は語る。
「これまでの経験から我々が学んだのは、オランダから導入した最新の施設や環境制御のソフトがいくら優秀でも、それを機能させるのは人だということでした。私たちは他社からの見学を断りません。施設を機能させるためのノウハウを身につけることが、簡単ではないとわかっているからです」
また、藤井のこの言葉に付け加えれば、同時期に農業参入を試みた多くの企業があえなく撤退に追い込まれていくなかで、カゴメが10年以上にわたって赤字の事業を続けたのは、収穫したトマトの販路獲得に自信を持っていたからでもあった。
野菜ジュースやトマトケチャップといった家庭用商品について、カゴメは全国に約2万店という販売網を張り巡らせている。加工食品と生鮮野菜では売り場は異なるが、店舗は同じだ。営業部隊の活躍により、カゴメのトマトは全国7500店舗に展開されるに至っている。製造業において、売り先のない商品の工場を建てる企業はいないだろう。農業においても事情は同じだが、生産を始めたものの販路の獲得が上手くいかずに撤退する企業は少なくなかった。
そんななか、今年1月から社長となった寺田直行は、生鮮事業の拡大を踏まえながら、「カゴメは『トマトのワンストッププロバイダー』を目指していく」と語っている。