こうした新しい品種の効率的な生産場所として導入されたのが欧州視察で重点的に調査したオランダ型の施設園芸だった。
九州と同じ程度の面積であるオランダは、世界第2位の農業輸出国である。藤井はオランダでガラス温室を見たときの衝撃を次のように語る。「最も驚いたのは、その単位収量の大きさでした。彼らは1反(約10アール)で平均40トン、多いところでは80トンや100トンを超えるトマトを収穫していたのですから」
同じ頃、日本では篤農家と言われる技術力の高い農家でも、ハウス栽培の単位収量は20トン程だったという。40トンを超える収量を彼らはどのように実現しているのか――。近年、政府は農業を「国策」と位置付け、安倍晋三首相などのオランダ視察が相次いでいるが、それに先んじて17年前に「オランダ式」に注目したのが他ならぬカゴメだった。
「温度、湿度、溶液の濃度、風量などの全てを総合的に環境整備した総合環境制御型の施設園芸。トマトを安定して大量に確保したいというニーズがあり、かつ日本の狭小な国土でそれを実現したい我々のような企業にとって、それは大きな可能性を感じずにはいられないものでした」
同社は「美野里菜園」で栽培する「こくみトマト」の販売開始を振り出しに、その後の5年間で次々に大型施設を立ち上げていった。そのなかで最も大きな規模となったのが、約120軒の地権者をまとめ上げて設立した「いわき小名浜菜園」だった。