ダメな経営者にノーをつきつける

【田原】今日おうかがいしたような政策を、いまのところアベノミクスはほとんどできていません。

【冨山】供給サイドの政策って、政治的に評判がよくないんですよ。つまり選挙の票にならない。これはグローバルの話ですが、供給サイドで効果的なのは、コーポレートガバナンスの強化です。でも、これも産業界から評判がよくなくて、すんなりとはいかない。本当は腹をくくってやるべきなのですが……。

【田原】僕は、かつてドイツのシュレーダーがやったように経営者に厳しく当たるべきだと思う。

【冨山】同感です。ドイツは、経済もサッカーもあそこからよみがえった。

【田原】具体的にはどうすればいいだろう。

【冨山】少なくても上場企業に関しては、社外取締役を複数入れてガバナンスを強化することが大切です。それから、株式の持ち合いも解消したほうがいい。以前に比べて減ってきましたが、持ち合いは議決権の無責任な行使につながるのでやめさせるべきです。いま日本でもスチュワードシップコード(株式を保有する機関投資家側の行動について規範を定めたもの)の導入が検討されていますが、これは必要です。ダメな経営者にきちんとノーをつきつけてこその株主です。

【田原】日本はローカルだけでなく、グローバルでもダメな経営者が退出しない。

【冨山】世界的に見ると、グローバル競争している製造業のROEは、だいたい10%以上です。一方、日本は5%程度で低すぎます。かつて日本の経営者は、長期的な利益を重視しているから短期的な利益にはこだわらないといってきました。しかし、それが間違いだったことは、この20年が証明しています。長期的に負け続けてきたわけですから。ROEを10%程度確保できなければ、将来に向けた投資ができず、競争力をますます失います。4~5%で停滞している経営者は、株主が退場させるべきです。

【田原】労働者側はどうですか。

【冨山】シュレーダー改革の流れでいうと、労働の流動性も高めたほうがいいでしょうね。日本の解雇法制は出来が悪くて、お金で解決してはいけないようになっています。お金で解決できないと、双方にとって不幸です。