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主な国別イスラム教徒人口(2010年)

私はこれまでたくさんのムスリムとつきあってきた。彼らがどれほど戒律を守ろうとするかは、個々人の性格はもちろんのこと、出身国や育った環境でかなりの違いがある。相当まじめにコーランの教えを実践しようとしているのは大体3割ぐらいだろうか。酒を飲んだり飲まなかったり、ビジネス上のつきあいであれば、かなり融通のきく者もいる。ムスリムの中にもいろいろな人間がいるのだ。ハラール認証というのは一種のマニュアルであり、マニュアル至上主義ですぐに思考停止に陥るのは日本人の悪いくせだ。イスラム文化への理解を深めないまま、なぜそのようにするのかを考えずにただ規則通りにやることに何の意味があるのか。しゃぶしゃぶでも、すき焼きでも、あるいはそれ以外でも、日本料理は基本的には醤油、みりんや酒を使う。日本独特の文化が育まれたことにはそれなりの理由があるのだから、旅行客にはむしろいつもどおりの料理を「これが日本食です」と提示してはどうか。無理強いをするわけではなく、食べてみたければどうぞ、という話だ。私は外国にいるときに日本食レストランがなくても文句なんて言わない。トルコに行けばトルコ料理を食べるし、エジプトではエジプト料理を食べる。新しい料理にふれることは、旅行者にとって、その後の食生活を、ひいては人生をより豊かなものにする機会なのだから。

イスラム教で豚肉が禁止されていることに、いろいろと理由をつけたがる人は多い。しかしムスリムにとっての答えは、「それがコーランに書いてあるから」、つまり神との約束だからだ。日本はしばしば無宗教の国だといわれる。そのため多くの日本人にとって、信仰を理解することは容易ではない。私は19歳でムスリムになった。それから50年近くたった今でも自分を「えせムスリム」だと思わされる場面がある。イスラム教国では、ちょっと走ればつまずいて転んでしまうぐらいの3歳ぐらいの子どもでさえ、親と同じように礼拝を行うのである。信仰は彼らの血肉だ。少しでもそのあたりを理解していただければ、ハラールビジネスの波にのまれることなく、真の相互理解の礎を築けるのではないだろうか。

笹川平和財団特別研究員 佐々木良昭氏
1947年、岩手県生まれ。拓殖大学商学部卒業後、国立リビア大学神学部、埼玉大学大学院経済科学学科を修了。アルカバス紙(クウェート)東京特派員、在日リビア大使館渉外担当、拓殖大学教授などを経て、笹川平和財団特別研究員。著書に『ハラールマーケット最前線』(実業之日本社)など多数。
(構成=唐仁原俊博 撮影=工藤憲二 図版作成=平良 徹)
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