ニオイと食欲の相関関係

この夏の甲子園大会が開催された頃、ある高校で野球部員の上級生が下級生にカメムシを食べさせ、それがイジメではないか、と問題になったが、ふつうに食している国もあるようにこの甲虫じたいに毒はなさそうである。が、その臭気はどうもわが国民には歓迎されず、むしろ忌避されている。

においが似ているというので、「カメムシソウ」と名付けられたのが、「コニシ」である。香菜、シャンツァイ、パクチー、コリアンダーなどともいう。

倭名類聚抄に記載されているくらいだから、すでに平安時代あたりから香菜は食されていたのであろう。それが、いつしか途絶え、江戸時代には「こえんどろ」として再登場する。これがまた、消えて、現代にいたり復活した。その背景には、やはりこの香草のニオイが大きく作用しているものと思われる。

「カメムシよりも腋臭(わきが)にちかい」

などという者もいる。それで食すには抵抗があるわけだが、私はそのクセのある匂いと味を気に入っている。

「そんなだから自分の体臭にも気づかない」

家族は大ブーイングである。

カメムシソウは大好物であるが、カメムシは、いけない。食欲が失せる。

ダイエットを続けていて、それなりに成果が出てくると、油断が生じる。たまには、せんべいの一枚、ラーメンの一杯くらい、いいじゃないか、などとうっかりリミッターを外すと、あとはなし崩しである。そんなとき、私は、

「カメムシの臭気スプレーがあればなぁ」

夢想する。炭水化物系などのカロリーがバカ高い食品に、シュッとひと吹き。たちどころにカメムシ臭くなる。が、毒ではないから、食べても健康に被害はない。でも、そうたくさんは食べられないだろう。友人に話すと、

「いや、おまえは構わず、ばかばか食うね」

断言されてしまった。

(佐久間奏=イラストレーション)
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