みそ漬けした期間の疑惑とは

そこで、重要になってくるのが、新証拠の提示である。

新証拠の条件としては、これまでの裁判で審理されなかったもの、新たに発見されたもの、などが挙げられる。

捜査権をもたない一般市民が新証拠を発見するのは容易ではない。

「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」(楳田民夫代表、山崎俊樹事務局長)では、みそ漬けにされた衣類とは実際にどんな状態になるのか、2006年頃から試しに漬けてみたところ、かなり短時間で相当に染まる、と判明した。そこで、本格的に5点の衣類と麻袋を使用し、「みそ漬け実験」をおこなった。ちなみに、実験に用いたみそは事件当時製造されたものと同じ成分の赤みそである。

第1回は、08年4月13日。この実験で、20分間も漬ければ、発見されたものと類似の5点の衣類はできる、と証明できた。

第2回は、08年6月30日から、09年8月31日。事件発生直後にタンクへ隠されたと仮定、発見された日まで漬けるとどうなるか。5点の衣類はすべてみそと同色に染まってしまい、原色を留めないことが判明する。この実験では血液も付着させていたが、黒色に変化し、とうてい人の血とわかるような状態ではなかった。

第3回は、10年2月16日から同8月29日に実行。ここでは、血液を付着させて1時間後の衣類と、1日後、18日後、と乾燥期間に時間差を設けた。その結果、血液はいずれも黒色に変化し、衣類はみそと同色に染まった。

おりしも、10年2月、検察庁で人事異動があり、袴田事件の担当検察官が変わった。小川秀世弁護士は、「季刊刑事弁護」で、

「検察官の対応が変化した」

と、率直な感想を述べている。

10年12月6日、証拠開示に応じた検察の資料を見た小川弁護士は、

「驚きであったが、5点の衣類は、発見直後、カラー写真で撮影されていた。ところが、公判に提出されていた写真は、発見直後のものは、白黒しかなかったのである。私たちは、この事実すら知らなかった。検察は、これほど重要な証拠であるのに、カラー写真の存在を隠していたのだ」(「季刊刑事弁護」)

小川弁護士が接写してきた写真を見た「救う会」のメンバーは、みそ実験の結果から、

「緑色のブリーフが、こんなに鮮やかであるはずがない。これはごく短期間しか漬けられていないものだ」

と確信した。これだけでも、新証拠としての能力は充分であろう。

「原審のあやふやな心証が、これら新証拠を加えて再評価することによって、あえなくもバランスを失って崩壊する事態も起こりうるのである」(前掲・安倍氏著書)

新証拠は、それだけに留まらなかった。

「寸法 4 型 B」

検察はこれをズボンのサイズと説明していたが、なんとそこに「偽造」があったのだ。

【関連記事】
なぜ履けないズボンが証拠採用されたのか
独占告白! 袴田秀子さん「冤罪で『死刑』にされた巖の心的外傷」
なぜ袴田巌さんが犯人に仕立て上げられたのか
それはファイティング原田の熱弁から始まった
再審決定!「袴田事件」48年目の真実