そして、松室氏が「日本にもこんな大胆な戦略を打ち出すベンチャー企業が生まれるようになった」と評価するのが、電動バイクの製造・販売を行っているテラモーターズだ。ベンチャー企業はニッチな市場を狙うのが半ば常識なのだが、10年、40歳だった徳重徹社長は会社設立当初から「生まれながらのグローバル企業」を意味する“ボーン・グローバル・ベンチャー”戦略を掲げている。電動バイクを事業に選択したのも、その戦略を実行する戦術の一つなのだ。
経済成長著しい新興国のモータリゼーションはまず二輪車から始まる。いま、ガソリンエンジンを搭載した二輪車の世界市場は推計で5500万台。これからも伸びが期待されているが、環境対策の観点から電動化へのシフトが求められるようになっているからだ。それに電動バイクのほうが、電動自動車よりも部品点数が少なくて水平分業が容易である。
同社がまず国内市場での布石を打つために10年10月に投入したのが、排気量50ccクラスに相当するスクータータイプの「シード」だった。車両本来価格は電動アシスト付き自転車よりも安い9万9800円。販売実績は初年度の500台から昨年度3000台、今年度4000台の見込みと着実に伸び、国内市場トップのポジションにある(2013年1月時点)。
その実績をひっさげていま徳重社長が力を入れているのが、アジア開発銀行がフィリピンで進めている三輪タクシー10万台の電動化プロジェクトの受注獲得だ。徳重社長は「1台当たりの価格は6000~7000ドルで、当社はプロトタイプを製造する技術力も備えており、受注獲得の手ごたえを十分に感じています」という。最終的に5社に発注される予定で、単純計算すると1社当たり2万台。それが獲得できれば、瞬く間に100億円規模の事業になる計算である。
また、13年秋からベトナムの自社工場で年間1万台の量産体制に入る計画で、東南アジア諸国や日本にも輸出を予定している。「10年後の売上高1000億円の達成が目標です」と語る徳重社長だが、それに向けた布石は実を結びつつある。
ネットとリアルの融合、エスキモーに氷を売るような発想の転換など、ベンチャー企業はさまざまな戦略や戦術を駆使して成長を遂げている。いまや大企業であっても、いつ経営基盤が崩れるかわからない。ベンチャー企業に倣って知恵を絞りながら独自の戦略や戦術をつくり出すことが、何よりも重要だろう。