以前『エスキモーに氷を売る』という本が話題になったことがある。必要とされていない商品を発想の転換でどう売り込むのかがテーマなのだが、約4000億円規模といわれる国内のメガネ市場でそれと同じようなことをやってのけたのが「JINS」のネーミングで全国に店舗展開をしているジェイアイエヌだ。和島氏は次のように語る。

目を守る機能を追求した「JINS PC」が100万本を超える大ヒット

「11年9月に発売を開始した、パソコンなどのディスプレーが発するブルーライトから目を守るメガネ『JINS PC』が12年末までに累計で100万本を超える大ヒットを飛ばしました。普段メガネをかけない人に対してパソコン用メガネという新しい市場をつくり上げたわけです。この快進撃によって今年度は前年度比30.0%増の売上高294億円の見通しとなっています(2013年1月時点)」

田中仁社長がレンズとフレームのセットで5000円と8000円という2本立て価格のメガネ事業を始めたのは01年、38歳のとき。その評判が口コミで一気に広まり、06年には株式上場を果たした。しかし、競合他社との低価格競争に巻き込まれ、08年、09年と2期連続で最終利益が赤字に転落する。

そんなどん底のなかでファーストリテイリングの柳井正会長兼社長と出会い、自社の事業価値を問われた田中社長は説得力のある返答ができなかった。そして柳井会長から「ビジョンがないのなら、会社を売ったほうがいい」といい渡された田中社長は、「メガネをかけるすべての人に『よく見える』『よく魅せる』メガネを、市場最低・最適価格で、新機能、新デザインを持って継続的に提供する」という独自の事業価値を打ち立てる。

それから単焦点クリアレンズなら矯正視力が強度の場合でも追加料金はゼロ円という前代未聞の価格システムを導入したり、従来25グラム程度だったフレームの重さを15グラムに抑えた「エア・フレーム」を投入したりして月に7万~8万本の販売実績をあげ、経営を立て直した。今回のパソコン用メガネも「目を守る」という新機能を追求するなかで誕生した。

さらに、花粉から目を守る「JINS花粉Cut」なども順次投入し、視力のいい人でも1人で何本もメガネを持つような時代の演出を仕掛けている。あたかも“エスキモーに氷を売る戦略”を推し進めているかのような田中社長だが、国内のメガネ市場を活性化させて1兆円規模に膨らませ、そのうち1割の1000億円の売上高を達成が目標だという。

ちなみに田中社長の持ち株は1146万4000株。前期の配当は1株当たり10円だった。ということは配当収入だけで1億1464万円もあったことになる。起業にはリスクがつきものとはいえ、成功の暁にはやはり大きなリターンを得ることができるのだ。