談笑さんも、ずいぶんと毒舌である。最近の時事的な話題などに、独自の視点でつっこんでは、満場の笑いを誘っていた。新聞やテレビで扱うには、ちょっと無理な視点。逆に言えば、社会が、それだけ「建前」だけで動いているということを意味する。
最近、学生たちと喋っていると、「ポエム化現象」に気づく。「夢」だとか、「一生懸命」といった、キラキラした言葉で、自分の人生を語ろうとする傾向が強い。
もちろん、そのようなポジティヴな思いは、生きていくうえでの支えになる。その一方で、人生のすべてが、明るい言葉だけで語れるわけでは、もちろんない。
人生には、難しいことがたくさんある。うまくいかないことだらけである。会社に入れば、さまざまな不条理がある。そんな中で、心に傷を受ける人もいる。
落語は、そんな生きることの矛盾を内側にため込まないための「毒出し」(デトックス)の働きを持っている。古典落語が成立した江戸時代には、現代以上にさまざまな不条理があった。そんな中で、落語には、不満や矛盾を心の内側でこじらせずに前向きに生きるための、庶民の智恵が詰まっている。
立川談志さんから、立川談笑さんへと受け継がれた「毒出し」の芸。談笑さんによると、子どもは、大人たちにとってのタブーについての話こそ、大声で笑うのだという。
ひとりの人生について考えるうえでも、社会の問題に向き合ううえでも、「毒出し」は大切である。
談笑さんと対話した、「落語と脳」の時間。会場を後にする人たちの顔は、どこか晴れ晴れとしていた。これも、「毒出し」の効果だったのだろう。
(撮影=武藤奈緒美)