薬局を駆け回って、認知症向けの栄養補助食品を探す
父(89)の認知症は日を追うごとに進行していきました。
私を呼び出すためのチャイムの送信機は押しボタンひとつで簡単に操作できるため、受信機の呼び出し音(セットした、『おおスザンナ』のメロディ)が鳴り続けます。
この頃の父は、私を呼ぶためにボタンを押すのではなく、訳もなく押していたようです。そうかと思えば、呼び出し音がパタッと止まることもある。知らずに送信機を体の下に押し込み、見つけられなくなっているからです。そんな父を放置しておくわけにはいかず、ベッドの横にいる時間が長くなりました。
急激な認知症の進行とともに父は生きる気力も失ってきているようで、食も細くなりました。負担なく食べられ、なおかつ栄養が摂れるようにと、卵やホウレンソウを細かくして入れたおかゆなどを作るのですが、食べようとしません。最後に残った好物の、かんぴょうののり巻きを1~2個食べる程度でした。
父の状態の変化は、ケアマネージャーにも伝えていたので、この頃は頻繁に様子を見に来てくれるようになっていました。この時、教わったのが液体の栄養補助食品です。
ある乳製品メーカーが製造している小さな紙パック入りの商品。少量で1回の食事に相当するエネルギーをはじめ、タンパク質や食物繊維、各種ビタミンやミネラルが含まれているそうで、「ストローで吸うだけで摂取しやすいから試してみては」ということでした。
主に、食事がうまく摂れない人向けという特殊な商品ということもあって売っているところは限られているようで、ドラッグストアを3軒まわってやっと発見しました。
並んでいる商品を見ると、ヨーグルト味、抹茶味など8種類があります。どれが父の口に合うのか、判断できなかったため8種すべてを買ってきました。
「これひとつ飲むだけで、いろんな栄養が摂れるんだって。飲んでみなよ。どの味がいい?」
帰宅すると、8種類を並べて見せ、こう父に勧めました。
不思議なもので、この会話は通じ、父はバナナ味を選びました。ストローを差し込んで口もとに持って行くと、すぐに飲みきったので、「おいしい?」と聞くと、うなずきました。少なくとも、この会話ができたことと、栄養面の心配が少しは解消できたことでホッとしました。