インターネットが普及した現代では、彼らの時代とは比べものにならないほど豊富な情報を集められる。しかし、収集が容易になるほど、人は入手しやすく自分に都合のよい情報ばかり集めて安心し、そこに安住してしまう。変化の激しい今は、情報の重要性の尺度がどんどん変わる。錯綜する情報の中から不完全でも「これだ」と思われるものを得たら、ひとまず先に進んでいかないと、成果を挙げるのは難しい。両書の洞察はそこへの警告も含んでいる。

将棋の羽生善治三冠は、指し手を考えるときは、まずいろいろと思い浮かぶ候補手を切り捨てて絞っていくというが、情報も同じである。無駄なものを切り捨てる“勘”が働かないと情報に振り回される。その“勘”を身に付けるには経験を積み重ね、時に痛い思いをすることも必要だろう。

先が読めぬ今は、「やってみなきゃわからない」時代。ウルトラマンのように必殺技を持たぬ我々は試行錯誤を繰り返し、軌道を微調整しながら臨機応変に対処するマインドが求められる。心の強さという、人としての基盤も問われてくる。

そこで歴史・古典に学ぶことは少なくない。古今の動乱期にはまさに生きた知恵が集約されているし、こうしたマインドが卓越した人物が数多く活躍している。現代人の悩みの多くは、すでにそんな先人たちが通った道なのだ。

守屋 淳
1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大手書店勤務を経て、中国古典の知恵の活かし方を主題とした執筆や企業研修・講演活動を行う。著書に『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ』『現代語訳 渋沢栄一自伝』『最強の孫子』(繁体字と韓国語に翻訳)ほか多数。
(高橋盛男=構成 石橋素幸=撮影)
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