2005年から大きく変わった

後藤晃・政策研究大学院大学教授

市場経済の基本ルールを定めた独占禁止法だが、企業から見ると「公正取引委員会は敵」と映るように、法律の趣旨がなかなか理解されない面がある。

経済のグローバル化が奔流のように進み、イノベーションを促進する競争政策の導入が喫緊の課題となる今日、独禁法を軽んじていては経営に支障をきたすばかりか、日本経済に悪影響を及ぼす可能性が出てくる。

そこで、独禁法に詳しい後藤晃・政策研究大学院大学教授に、主に経済のグローバル化とイノベーションの促進に焦点を絞り、法律の運用や最近の動向についてアカデミズムの立場から解説してもらった。

初めに、経済のグローバル化、つまり国境を越える企業活動と競争法の関係について話を聞いた。杉本和行公取委員長のインタビューにもあるように、米国、欧州連合(EU)を問わず国際カルテル・談合の摘発が相次ぎ、巨額の制裁金もさることながら、米国では刑事事件として関係者の身柄を拘束するケースが増えているためだ。

カルテルにここまで厳罰で臨むようになった背景は何か、まず、その点を質した。

「米司法省は1960年代にゼネラル・エレクトリック(GE)の副社長を逮捕するなど、もともとカルテルに厳しい姿勢で臨んできました。国の基本理念として、『カルテルは悪』という考えが根本にあるのだと思う。一方、EUは市場統合をきっかけに、カルテルへの追及を強化している面があります。米国のように刑事罰を科すことはありませんが、制裁金の額が極めて高いのが特徴です。そんな流れが強まっている中で、日本企業がそれに巻き込まれるようになったのは、リニエンシー(課徴金減免)制度の導入が大きな契機になったと見ています」

リニエンシー制度とは、カルテルのメンバーになっていた企業が違反行為を公取に申し出た場合、課徴金を全額免除ないしは減額する仕組みで、2005年の独禁法改正により導入された。後藤によれば「同業者をお上に密告するような制度は、日本的な和の文化になじまないという議論が産業界にあったが、いざふたを開けてみるとものすごくたくさんの申告があった」そうで、日本でのカルテル摘発が増えるのに合わせ、連鎖的に米欧での摘発も加速する結果になった。

最近、米司法省は米国での裁判を避けて海外にいる外国人被告の身柄引き渡しを強く要求しているといわれ、「日本も社員教育を徹底するとともに、社内のルールを整備する必要がある」と、後藤は警鐘を鳴らした。